62 ”aiy”
「で、一体何があったんだ?」
隅っこの方のソファに座って、大型犬の話を聞く。
もともと短気な男なのかもしれないが、あの様子は尋常でないように思えた。
「いや、その、よ」
「私たち夫婦になりにここまで来たんだけど…」
ずいっと横から未来の奥さんが入ってくる。
この人達も婚姻届を出しに来たのか。
奇遇だ。
「昨日から法律が変わったとかで、政府の面接を受けて来て下さいなんて言われちゃって…」
男の方にバトンが渡る。
「しかもよお、子供の名前は政府で決めるようになったとか、あいつらほざきやがるんだ。
…どうなってやがる?」
キラキラネームとやらの対策も、ここまで来るとやり過ぎだな。
「子供…」
横では由紀乃が何事かを呟く。
まずい、その頬の色は危険だ。
「面接っていうのも、もう数年先まで予約で埋まっているらしいね」
「…いっぺんテロでも起こしてやるか?」
どうにも今日ここに来た目的は果たせそうに無いらしい。
よし、プラン変更だ。
「なあ、あんたら」
二人に呼びかける。
「今の政府に不満があるんだったら、今日の午後三時くらいに一度Nチャンネルを見ておいてくれないか?」
はっとしたような表情で、由紀乃がこっちを振り向く。
その目が、いつもより少しだけ輝いているような気がした。




