60 ”aim-haumun”
扉を開けるなり、由紀乃は俺にしがみついた。
抱きついたとか、そういう甘い匂いのするフレーズでは、この生存のための本能的な行動は表現できない。
まさしく俺にしがみついた。
「やっぱ、やめよう」
「だめ!」
いっそう腕に力を込められる。
こういう時は、由紀乃はひたすらに頑固だ。
だからこそ、インターネットの中では大成功を収めた。
「わあったよ。
しっかり、捕まってろ」
そのままの体勢で抱き上げて、由紀乃をリビングまで運ぶ。
「おや、京之介君。
もう帰ってしまうのかい?」
そこまで言ったところで、由紀乃の父が異変に気がつく。
「…由紀乃?」
今日ここを訪れてから、何度目のことだろうか?
暫く誰も声を出せなかった。
沈黙は声ではなく、由紀乃の母が皿を落として割る音で破られる。
「由紀乃!」
血相を変えて、由紀乃の母が俺達の方に飛び込んでくる。
殴られる。
そう思って目をつむった。
だが、帰ってきた感触は、そんな暴力的なものではなく、とても温かで優しいものだった。
抱き締められたのだ。
俺と母親とで由紀乃を挟むように、二人いっぺんに。
「おかえりなさい」
少し掠れた声で、由紀乃の母がそう呟いた。
「あ、ああ、そうだね。
あんまり驚いてしまったから、大事な事を忘れていたよ。
おかえり、由紀乃」
ふんわりと由紀乃の父が微笑む。
俺は震える由紀乃の指を、体から丁寧に剥がした。
「由紀乃。
これでも怖いか?」
由紀乃の母も手を離した。
改めて、二人の方に由紀乃を向き直させる。
「言いたいこと、あるんじゃねえの?」
こくりと、由紀乃の白くて細い喉が上下した。
「た、だ、い…ま」




