59 ”haundgo”
「えっと、結婚するんだから、あれよね」
「結婚式については…」
「お役所に結婚届出さなきゃ」
「そっちか」
って、待てよ。
「結婚届って、二人で持ってかなきゃいけないんじゃなかったっけ?」
少なくとも俺が知っている常識では、夫婦揃って提出しなければいけない。
「そうね」
「そうねって…。
外、出られるのかよ、お前?
そういうことしなくたって、考えではどうにかなるようにしてあるんだが」
由紀乃は一切外に出なくていい。
ただちょっとだけ、パソコンを操作してくれればこの作戦は終わりだ。
「そういうこと…したいの」
「怖く、ないのか?
外に出るのは」
「怖いわ」
「なら、どうして?」
「怖い。
怖いけど……。
…引きこもりっていうのも、案外楽じゃないの。
パソコンはあるけど、だんだんそれだけだと飽きてしまう。
要するに、出たく無いを、出たいが上回ったってだけ。
それに今は…」
「今は?」
由紀乃が俺の手を強く握った。
言わせんなよ、恥ずかしい…ということらしい。
「手、ちゃんと握れるようになったんだな。
昨日は俺の頭に手を置くのにも怖がっていたのに」
「さっきのあんたの話し聞いてたら、怖がってたのが馬鹿らしく思えた。
だって、馬鹿なんだもん、あんた」
「案外外だって、馬鹿ばっかかもしれねぇぜ」
「そうね……ありがとう」
暫くお互い無言でクッキーを貪った。
「ねえ」
「ああ」
「…私が情けない声を出したり、歩けなくなったりしても気にしないで。
私は、大丈夫だから。
……けど。
けど、その、本当に動けなくったりしたら、その…」
「お姫様だっこを御所望、と」
「うるさい。
そこまでしなくていい」
「へい。
それじゃ、そろそろ」
「行こう」




