58 ”twuourlth”
………。
…………。
寒いな、この部屋。
「結婚、しましょう」
「ああ」
……………。
………。
「なんで?」
「あんたが、結婚して下さいって言ったんじゃない」
「いや、そうだけどさ…」
「別に…愛してくれなくてもいい。
嫌いになってくれてもいい。
わかってるよ、あんたに…私に対して、その、そういうのが無いことくらい。
でも、それでも、私と結婚したいんでしょう?
あんたは、私の知らない何かを知ってる。
私と結婚することで、その何かをあんたは達成しようとしている。
違う?」
「違……わないけど、だからこそ、なんでだよ。
俺は、お前を道具にしようとしているんだぞ」
「あんたに幸せになって欲しいから。
あんたにもう、悲しんで欲しくないから…って感じで、どう?」
「どう? じゃねぇよ」
「じゃあ、いいわ。
言っちゃう。
言っちゃうよ。
…私、あんたの道具になりたい」
「……」
「別に、あんたを悲しませたことの埋め合わせってわけじゃないわ。
私がそういうの引き摺らないって、知ってるでしょ。
いや、もしかしたら知らないのかもしれないけど、私は、少なくともここにいる私はそうなの」
「俺の知ってるまんまだよ。
お前は」
「…良かった」
由紀乃が床に置いたクッキーの小袋を開けて、中身を食べる。
小さな口で、ゆっくりと。
袋の色は赤、つまりココア味だ。
俺は由紀乃の側に寄って、白い小袋を取り出して開けた。
由紀乃はいつも、ココア味とバニラ味を交互に食べる。
「本当なんだ」
由紀乃がクッキーを受け取る。
俺も、さっき投げつけられたやつを拾って食べた。
うまい。
「今のあんたは、昨日と違って、全部わかった顔してる。
あんたの言う通りにすれば、きっと、少なくともあんたは幸せになれる。
だから、私と結婚して下さい」
「…それで、お前は幸せになれるんだろうか」
幸せにしてやれる自信なんて、一欠片も無い。
「私には、その、あの、えっと……あんたしか、いない。
だからあんたが、幸せなら。
私は、幸せ」
そうして、言わせないでよ、だなんて言って顔を埋めるものだから、俺にはもう拒否権なんてものはなかった。
いや、俺から頼み込んだんだけどな。
「ふつつかものですが、宜しくお願いします」
本日二度目の土下座だ。
「き、急に改まらないでよ。
……こ、こちら、こそ」
「いいんだよな、本当に」
「くどい!」
「…だって、道具だぞ?」
「いいの。
それに、」
顔を上げると、すぐ近くに由紀乃がいた。
「あんたは、物を大切にする方だって、よく知ってるし」
………。
昨日、携帯ぶん投げたけどね。




