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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
76/120

56 ”marluiyetto”

「お、お兄様。

あたしもお供致しますぜ」

例の一件から、カナタの俺に対する言葉使いがいろいろとおかしくなっている。

「駄目だ。

あいつは極度の人見知りで、俺以外の顔を見るとパニックを起こす。

俺なんかについて来るくらいだったら、もっと他に出来ることがあるはずだ」

「す、すいません…」

なんだかしょんぼりとしてしまっている。

散歩に連れて行って貰えなかったペットか何かのようだ。


…一つ思いついた。

俺は財布から一枚抜き出した。

「暇なら録画用のデジカメ買ってきてくれ。

中身弄るから、一番安い奴で構わない。

……釣りは面倒だから、いらない」

『釣り』の辺りで、カナタの耳がピョコンと跳ねた気がした。

結構ゲンキンだな。


「ハイっす!

只今行ってくるっす」

これまたどっかの誰かを彷彿とさせる表情の変わり様だ。

さてと、俺も行かねば。


「やあ京之助君。

今日は元気そうだね」

「なんつうか、吹っ切れた。

由紀乃の部屋、上がらせて貰うぜ」

「別にいちいち断らなくったって、君ならいつでも歓迎さ。

由紀乃がお世話になります」

「今日は俺が世話になる方だ」

巻き込ませて貰うぜ、由紀乃。


俺は躊躇わずに由紀乃の部屋のドアをノックした。

飛び出してきた由紀乃は俺を部屋の中に引きずりこむと、いつも通り一言目から「この暇人がっ!」と俺をなじる。


「今日と明日の二日間は、それなりに忙しくなりそうなんでほっとけ」

「何それ?」

「ま、どれだけ忙しかろうと、お前には毎日会いに行くから心配すんな」

「……ばか」

由紀乃はそう言ってクッキーの小袋を俺に投げつけた。

結構痛い。


「……ねえ」

「ん?」

「最近ブログサボり過ぎじゃない?

あんたのファンが心配してたわ」

「あ、忘れてた」

「この前うちに来たのは、何のためだったのよ」

「そりゃもちろんお前に会うた…」

「黙りなさい」

「……」

由紀乃は目を泳がせて、真っ白な髪を指先にクルクルと巻きつける。

かわいい。


「だが、まあ、今日はお前に頼みたいことがあって来たんだ」

「……なによ」

俺はここに来て言い淀む。

大丈夫、これは夢だ。

空だって飛べるさ。


「…由紀乃」

「…なによ」

「由紀乃!」

「何よ!」

「由紀乃由紀乃由紀乃由紀乃由紀乃ああ、由紀乃!」

「な、な、なな、なによ!?」

飛ばせて貰うぜ。


「…結婚して下さい」

その土下座は、俺たちの壮大なるちっぽけな革命の始まりだった。


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