56 ”marluiyetto”
「お、お兄様。
あたしもお供致しますぜ」
例の一件から、カナタの俺に対する言葉使いがいろいろとおかしくなっている。
「駄目だ。
あいつは極度の人見知りで、俺以外の顔を見るとパニックを起こす。
俺なんかについて来るくらいだったら、もっと他に出来ることがあるはずだ」
「す、すいません…」
なんだかしょんぼりとしてしまっている。
散歩に連れて行って貰えなかったペットか何かのようだ。
…一つ思いついた。
俺は財布から一枚抜き出した。
「暇なら録画用のデジカメ買ってきてくれ。
中身弄るから、一番安い奴で構わない。
……釣りは面倒だから、いらない」
『釣り』の辺りで、カナタの耳がピョコンと跳ねた気がした。
結構ゲンキンだな。
「ハイっす!
只今行ってくるっす」
これまたどっかの誰かを彷彿とさせる表情の変わり様だ。
さてと、俺も行かねば。
「やあ京之助君。
今日は元気そうだね」
「なんつうか、吹っ切れた。
由紀乃の部屋、上がらせて貰うぜ」
「別にいちいち断らなくったって、君ならいつでも歓迎さ。
由紀乃がお世話になります」
「今日は俺が世話になる方だ」
巻き込ませて貰うぜ、由紀乃。
俺は躊躇わずに由紀乃の部屋のドアをノックした。
飛び出してきた由紀乃は俺を部屋の中に引きずりこむと、いつも通り一言目から「この暇人がっ!」と俺をなじる。
「今日と明日の二日間は、それなりに忙しくなりそうなんでほっとけ」
「何それ?」
「ま、どれだけ忙しかろうと、お前には毎日会いに行くから心配すんな」
「……ばか」
由紀乃はそう言ってクッキーの小袋を俺に投げつけた。
結構痛い。
「……ねえ」
「ん?」
「最近ブログサボり過ぎじゃない?
あんたのファンが心配してたわ」
「あ、忘れてた」
「この前うちに来たのは、何のためだったのよ」
「そりゃもちろんお前に会うた…」
「黙りなさい」
「……」
由紀乃は目を泳がせて、真っ白な髪を指先にクルクルと巻きつける。
かわいい。
「だが、まあ、今日はお前に頼みたいことがあって来たんだ」
「……なによ」
俺はここに来て言い淀む。
大丈夫、これは夢だ。
空だって飛べるさ。
「…由紀乃」
「…なによ」
「由紀乃!」
「何よ!」
「由紀乃由紀乃由紀乃由紀乃由紀乃ああ、由紀乃!」
「な、な、なな、なによ!?」
飛ばせて貰うぜ。
「…結婚して下さい」
その土下座は、俺たちの壮大なるちっぽけな革命の始まりだった。




