45 ”sIgnaghuvy”
何はともあれチャンスだ。
もう二度とこんな機会は訪れないだろう。
無駄でもなんでも、足掻くだけ足掻くしかない。
煙幕に呆気に取られている隙に、思い切り清水の側頭部を殴る。
ガツン。
確かな手応えがあった。
清水は膝を床について動かなくなる。
…おかしいな。
殴る腕を掴まれて、カウンターで投げられるくらいは想定していたのだが、やけにあっさりと倒れてくれた。
……もしかして、わざと倒れてくれたのか?
「悪い、清水」
俺はエイダと千梨を起こして突然のことに慌てる彼女たちに、最低限の事情説明をしながら佐上を担ぎ上げ、急いで部屋を後にした。
結局窓の外の警備隊員が部屋の中に入って来ることは無かった。
清水の命令が無いと一般家屋に入れないとか、そんな法律でも出来たのだろうか?
さて、清水が起きるのは時間の問題だろう。
さっさと我が家から脱出しなければならない。
しかし、清水の話によるとこの家は完全に包囲されているらしい。
迂闊に外に出ると危険だ。
完全に包囲されているとは言われたが、それは二次元的になのか、それとも三次元的になのだろうか?
今晩はヘリコプターなどの航空機の音は聞いていない。
まあ多分、大丈夫だろう。
「キョー、どうする?」
「まあなに、ここは俺の家なんだぜ。
地の利はこっちにある。
まだお前には見せてなかったっけな。
ついて来い」
自室に上がる。
取り敢えず佐上は隅っこの方に置いといた。
襖を開いてタンスとタンスの隙間の奥の方へ手を伸ばす。
よし、やっぱりあった。
引っ張りだすと、まるで新品のような綺麗な脚立が姿をあらわした。
がちゃりと広げて、固定。
「だいたいここだったかな」
少し移動させて、俺は脚立を登る。
俺でも天井に手が届くくらいまで登ると、俺は躊躇わずに天井の一部を殴った。
ばこん。
間抜けな音がして、天井の一部に正方形の穴が開く。
普段は壁紙で隠れているのだが、昔天井裏のネズミを駆除する時に、ここに穴を開けたのだ。
「……シナーウビホウセ」
「忍者屋敷な」
「シッケイシタ」
天井裏からは、またさらに屋根の上に出られる扉がつけられている。
何のためにそんな物が存在していたのか、全くもって不可解だったが、今日やっと理解できた。
あの扉は警察から逃げる為にあったのだと。




