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37 ”kclraiy”
寝付けない。
胸の辺りが苦しい。
原因はわかっている。
何かをしなければいけない。
そんな具体性も質量も無い不安感は、馬鹿げたことに俺に重くのしかかってくる。
そんな不安感を生み出しているのは、紛れもない俺自身だ。
………いいじゃねぇか。
何も出来やしねぇよ。
わかってんだよ。
あの時携帯電話の向こうから伝わってきた世界の様子は、確かな熱と質量を持って俺に殺意を向けた。
『…あつい……どこ?…おにいちゃ…ん……どこ?』
耳元から由紀乃の声が生まれた。
わかってる、幻聴だ。
『あつい…あつい…あ…い…』
幻聴だ。
『あつい』
幻聴だ。
『あつい』
「うるせぇっ!!」
……………。
まるで死んでしまったかのように、声が止んだ。
……………。
耳鳴りがする。
誰かが啜り泣く声が聞こえる。
ああ、この声は聞き覚えがあるな。
なんてったって自分の声だ。
もういい加減聞き飽きた。
だから黙れよ。
…………。
そうして、何の音もしなくなった。




