5 ”khatvlreig”
俺と店主の珍妙なやり取りに、隣の隣の更に隣に座っているスーツを着たおっさんが、終末感溢れる呟きで割って入った。
「あ、そういや居たわね、桂木さん」
店に忘れ去られる客ほど、惨めなものもそうないだろう。
まあ、そういう俺もすっかり忘れて居たのだが。
この桂木(下は知らん)という頭頂部が若干薄い男は、何に対しても兎に角悲観的なことで、俺の中では有名だ。
「…このままでは、お仕舞いだ。
……信用を、信用を取り戻さなくてはあぁぁぁ」
頭を抱えてうな垂れる桂木。
何やら大変そうだ。
「左右で違う靴下を、間違って履いたまま出社しちゃったんだって」
はあ、と店主のため息。
前言撤回、何やら別段大変でもなかったようだ。
いつもこんな調子なのだ、桂木は。
「……むう」
ん?
桂木が座っている方とは反対側、つまりエイダ側から強い視線を感じたので、頬杖をついている手を入れ替えて向き直してやる。
あらあら、随分とご不満そうなお顔で。
「あはは、桂木さんに京ちゃんを取られたくないって」
「おい店主、その翻訳は間違っている。
何故なら俺にはそんな趣味はな!?…ごふ」
口を開けたところにすっかり冷えたコーヒーを無理矢理流し込まれた。
もちろん犯人はエイダだ。
むせかえって吹きこぼしそうになるのを、慌てて抑える。
そういやまだ、コーヒーに手をつけていなかったな。
とんとん、と胸の辺りを叩き、落ち着いたのを確認して、エイダの方に向き直す。
「…その行動の理由を、説明してもらおうか?」
「飲まないキョーが悪い」
「はあ?」




