22 ”yxkikno”
由紀乃とは何をする時でも一緒に居た。
多分、実の兄よりもそばにいた時間は長い。
そう思いたい。
俺が高校生の頃、親の転勤について行ってこの町を離れるまで、いつでもどこでも一緒に居た。
今思えば、あの時俺が家を捨ててこの町に残っていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
結局俺はこの町の大学に通うことになり、今のボロ家に引っ越し、その当日に俺は早速東町家の玄関を潜った。
由紀乃は、それはもう見事な引きこもりになっていた。
もともと人見知り気味(これは俺のせいかもしれない)だったとは言え、トイレに行く時にも、自分の親に気がつかれないように足音を潜めて歩く様は、流石に異常だと思えた。
一体俺がこの町から離れていた間に何が起こっていたのか。
誰に聞いても一様に首を横に振られた。
その日以来、俺は暇を見つけては由紀乃に会うことにしている。
幸い、俺と由紀乃の言うところの『あいつら』は、由紀乃の世界から弾かれることはなかった。
ドアをノックしようとして、寸前で手を止めた。
最近の由紀乃は、ちょっとした物音も恐怖の対象にしてしまう。
こっちでもそうなのかはわからないけれど。
ドアノブに手を伸ばして、また引っ込めて。
何やってるんだ俺は。
…そりゃ、怖いさ。
今の俺は、今まで通りに由紀乃と話しをすることができるだろうか?
さっきの電話の向こうの由紀乃が、今この部屋の中にいる由紀乃と重なりやしないだろうか?
そしたら、どうなる?
俺は、まず間違い無く逃げ出すと思う。
何から、ではない。
何もかもからどこもかしこに逃げ出してしまうだろう。
だって、だってさ。
俺が何をしたところで、この世界は、由紀乃は…
「…あいてるわよ」
扉が開いていた。
成長が途中で止まってしまったかのような小さな体の上で、アルビノの白い髪を揺らして由紀乃が手招きする。
何かよくわからん機械が動く音が、ぶううんと流れ込んできた。
ああ、由紀乃だ。
「…久し、ぶりだな」
「昨日会ったばっかじゃない。
頭、大丈夫?」
「ああ、そうだっけ?」
「本当に大丈夫なの?
…とにかく中に入りなさい。
早く!」
「悪い」
中に入って、急いでドアを閉める。
外の様子とは正反対で、薄暗く肌寒く。
由紀乃の部屋は相変わらず人間が住むには厳しそうな部屋だった。
「で、今日は何?
またブログのネタ貰いに来たの?
…ねぇ、ねえってば」
「あ、ああ。
いや、なんでもない」
「じゃあなんで泣いてるのよ。
なんでも無いようには見えないけど?」
頬に手をやってみる。
確かに俺は泣いているらしい。
「昔っからそうよね、アンタ。
何か嫌なことがあっても絶対に人に話そうとしない。
けど、あたしには結局勝てないのよね。
ふふ、楽しい。
さあ、白状しなさいよ」
優しくて懐かしい感触が体を覆う。
…世界がヤバイとか、お前も死ぬとか、そんな言葉ばかり口をついて出てしまいそうだ。
俺は唇を思いっきり噛んでから、口を開いた。
「…あのさ、夢を見たんだ。
凄い、嫌な夢だった。
お前が電話をかけてきて……」




