21 ”fagxar”
東町家の表札は、結局俺の知っているあの場所に立てかけられていた。
「エイダ、千梨を頼む」
「ロゼル」
「…ラジャー」
「シッケイした」
「気難しい人なんですねぇ、東町さん」
由紀乃が極度の人見知りであることは、事前に説明しておいた。
この二人をこの場に置いておくのは少し不安だが、連れていくのはもっと不安だ。
日光が程よく入り込む庭の中、玄関扉の前で俺は一つ深呼吸をした。
蓮華の花の上を呑気に飛び回る蜂が、憎らしく思える。
程なくして、がチャリと音を立てながら玄関は開かれた。
歳の割りには顔にシワの多い由紀乃の母親が、無言で、無表情で手招きをした。
いつも通りだ。
「お邪魔します」
靴を揃えてから、中に上がり込んだ。
「そんな風に畏まるのは京之介君らしくないな。
どうしたんだい?」
リビングの手前の廊下に、由紀乃の父親が疲れたような笑みを浮かべて立っていた。
「いえ、なんでもありません」
「本当にどうしたんだい?
君が丁寧語を使うだなんて、お父さん心配だな」
少しの間逡巡したが、結局いつものアレを言うことにした。
「…お前に育てられた覚えはねぇ」
「はは!それでこそ京之介君だよ。
…由紀乃が会いたがっていたよ、さあどうぞ」
この親父は、嘘をつくときには必ずと言っていい程鼻をひくつかせる。
そりゃそうだ、この人が由紀乃の真意を知るはずが無い。




