20 ”urledd”
そうだ、それだよ!
携帯電話があるじゃねえか!
これであいつに電話をかければ、あいつがいるのかどうかが確認できる。
いや、待てよ。
今までの番号に電話をかけても、こっちじゃなくてスタティオンに入る前まで居た世界の方のあいつに繋がるんじゃねえのか?
いや、それでも嬉しいな。
あいつは今、向こうでどうしているんだろう?
俺は何の躊躇いもなく、携帯電話のキーを押した。
『………ピー…ザザッ……ピー…
prrrrrrr…prrrrrrr…prrrガガッ』
「おい、由紀乃?聞こえてるか?」
『…ぃ…ん……お兄…ちゃん』
由紀乃の声は掠れていて、今にも消えかかっていた。
「ああ、俺だよ。
どうした、何があったんだ?」
懐かしい呼ばれ方に少し涙腺が緩んだ。
最近はおい、だの、アンタ、だのそんな風にしか呼ばわれていなかったのに、一体どうしちまったんだろう。
しかし、電話の向こうの由紀乃はそれどころでは無さそうだ。
『…あつい……どこ?…おにいちゃ…ん……どこ?
あつい…あつい…あ…い…』
「おい、大丈夫か!?
風邪か?
すぐに行くから、水沢山飲んで布団被って…!」
もし、今電話の向こうから聞こえてくる荒い呼吸が、俺が元居た世界の由紀乃のものだったとしたら、俺は由紀乃の顔を見ることすら出来ない。
その事に気がついて、俺は口を噤んだ。
『聞いて…お…いちゃん』
「…ああ、聞いてるぞ」
『みんな、死んじゃった。
……溶けて…グチャグチャになって……凄いよ、蛇口から…ね、人の身体が、腐った、匂い…が、するの。
ねえ、どこ?…おにい…ちゃん……ど、こ?』
高野の声が頭の中を流れる。
『この世界はこのまま何もせずにいると滅亡します。
それも大体三日後に』
『貴方が他の世界を観測すれば、その他の世界が【この世界】であるという事になるのです』
だったら、【この世界】以外の世界はどうなってしまうんだ?
『ど………こ…?』
答えは簡単に見つかった。
いや、聞かされた。
俺は考えるのを止めて、携帯電話を投げ捨てた。
「嘉賀さん、嘉賀さん?
どうしたんですか!?
大丈夫ですか!?」
………………
…………………
……………………。
「ああ。
なんでもねぇよ。
じゃ、行こうぜ」
俺は今、誰に向かって笑っているのだろうか?




