3 ”maneghy”
コーヒー2杯分の小銭をカウンターに置いて、背の高い椅子に座る。
クソ、足が地面に届かねぇ。
改めて自分の身長の低さを思い知らされる。
隣に座るエイダは、優雅に脚を組んで頬杖をついていた。
すらっとしたおみ足が、ワンピースから伸びている。
勿論、爪先から踵までをきちんと地面につけていた。
クソ、エイダの癖に生意気な。
脚揉むぞごるぁ。
それにしても、改めてこう思う。
俺は一体何をしているんだと。
この女を文字通り拾ったのは、大体二年程前、まだ俺が大学生をしていた頃だった。
…あの時の俺は本当にどうかしていた。
いや、現在進行形でどうかしている。
なんで俺がこいつの為に大学をやめて、バイトを梯子して(いた)、家計を切り詰めて、そうまでしてコンプレックスを植え付けられなきゃいけないのか。
全くもって、俺には理解しかねる。
まあ、俺がしていることなのだが。
でも、そんなことを考えているうちに、いつの間にか運ばれていたコーヒーを啜る、エイダの幸せそうな顔を見ていると、なるほどわからなくもないような気がしてくる。
まさか二十にして親(?)心を知ることになるとは。
見た目だけでみると、あっちの方が歳上なんだがな。
シャリン。
金属と金属がこすれ合うような音がした。
「冷めるよ?」
店主が、お代を摘まみながら俺に声をかけた。
ああ、そういえば俺はコーヒーを飲みにきていたんだと思い出す。
どうにも俺は考え事をしだすと、周りどころか自分すらも忘れてしまう癖がある。
「それにしても、あんたも可愛い顔して良くやるわねぇ。
また、殴っちゃったんでしょ?」
殴っちゃったんでしょ? というのは、俺がバイトを辞めた理由に対しての、女店主の推測、及びそれの確認だ。
そういった推測を建てられてしまう程度には、俺は人を殴ってきた。
ある時は、俺の可愛い後輩に寄ってたかって、集団で取って食おうとしたクソ上司どもを殴り、またある時は、誰の口の中に入るともわからない牛丼の中に、日々の鬱憤を込めて痰をぶち込んだクソ同輩を殴り、またまたある時は、ええっとなんだっけな? 兎に角クソ野郎を殴ったりもした。
別に自慢するつもりもないし、誇るつもりもない。
後悔するつもりも懺悔するつもりも謝罪するつもりもないけどな。
しかし、別に殴りたくて殴っているわけではない。
俺だって痛いのはやだし、殴ると俺の手も痛い。
一応毎回、殴る前にはちゃんと話し合いに持ち込んでいるのだ。
俺なりに理屈を考えて、お前のここがこういう風にこういう理由で気に入らないんだけど、と、曲解もされないように、なるべくストレートに伝えてはいるのだ。
なんだがなぁ。
なぜかいつもまともな話し合いにならない。
そんで、結局話し合いで解決するという道は閉ざされてしまうわけだ。
そうなったら、殴るのが一番手っ取り早い。
結果、俺は今回もそんな具合に、バイトを辞めてきてしまったのだった。




