2 ”koffe”
『喫茶はじまり』と書かれた扉を開けると、白髪の目立つ女店主と、しけた顔をした、ワイシャツにスラックスのおっさんが出迎えてくれた。
「あら、京ちゃんにえっちゃんじゃない。
珍しいわね、こんな時間に」
京ちゃんとは俺、つまり加賀京之介のこと、えっちゃんとは佐々木エイダ、つまりこの女のことである。
「邪魔をやる」(訳:おじゃまします。)
ふわりと髪をかきあげ、決めに決めたポーズでこんなことを言い放つもんだから、隣の俺は笑いを堪えるのに必死だ。
視覚だけだと非常に絵になっているのが、さらに笑いを誘う。
…おお、いい揺れだ。
目線をある特定の一部に集中させることで、なんとか事なきをえた。
「バイト、またクビになっちまってね。
丁度良く暇な時間が出来たというわけさ」
「あらまあ、それじゃこんなところにお金を落としている場合じゃないんじゃない?」
この店主も、普通の客相手にはここまでこちらの事情に突っ込んだ話はしてこない。
長い付き合い故の特典というやつだ。
……心底いらねぇ。
「いいや、私とキョーはキャフエでコッフェを頂くのだ」(意訳:ヤダヤダ、京と一緒にコーヒー飲むんだもん。)
「あらまあ」
頬に両手を当てて生暖かい微笑みを返す店主。
おばあちゃんが遠くから来た孫にお小遣いを渡す時の顔、そう言えば伝わり易いだろうか?
俺たちゃあんたの孫でもなんでも無いんですがね。
「ま、そういうわけで、いつもの二つ頼む」
「…しかし、私はこのスペサルカラミャルキャフエ・テャピオカ入りという飲食物に興味がある」(意訳:エイダはぁ、ただのコーヒーじゃなくて、このスペシャルキャラメルカフェ・タピオカ入り(税込715円)ってやつが飲みたいなぁ。
ね、パパ、いいでしょ?)
お前を育てた覚えはねぇ。
いや、育ててるようなもんか、この現状。
「明日から、三食ともコンニャク齧って過ごしたいんなら、そうしてくれても構わない」
さあっと青ざめるエイダ。
「は、ハラキリィ」(意訳:すみませんでした。)