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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
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「おや、清水さん、それとカナタじゃないか。

また会えて良かったよ」


「…もう二度と会いたくなかった」

カナタの発する険悪な雰囲気に押されて、周囲が少し静かになる。


まるでステージにでも立つかのように、日高は両腕を広げて声高に群衆に呼びかけた。

「皆さん!

少し僕の言葉に耳を傾けてはくれませんか?」


なんだなんだ?

何事だ?

そんな声がどこからか聞こえてくる。

一体日高は、今更何をするつもりなんだ。


「まずは前提条件を確認します。

この男…」

日高が桂木を指差す。

「皆さんは今後、コレをどうするおつもりですか?」

コレが息を荒げて身悶える。

物扱いされたことが癪に触ったのだろうか?

いい気味だ。


「…どうするって……どうもこうもねぇだろ」

一人の男性が応える。

そうだな。

別にどうする必要も無い。

情報を流して、桂木を総理から降ろして、そこから先は次代の総理が指導する国が決めることだ。

俺たちにどうこう出来る物じゃない。


「ははは。

そうでは無いかと思っていたよ。

京ちゃん。

君はどう思う?」

突然名指しで呼ばれた俺に、周囲の視線が集まる。

……物凄い圧迫感だな。

こんなものに由紀乃は耐えていたのか?


「どうって何だよ?

お前はいっつも回りくどいな。

何が言いたい」

「君だってわかっているだろう?

この男は放っておいてはいけない。

生きているだけで危険なんだと」

…………。

「極論だ。

国のトップじゃなくなって、信用も何も失くしたこいつに何かが出来ると思うか?」

「そうじゃない。

わかっているだろう?

実際に危険なのはコレ自身じゃあない。

コレと繋がりのある人間、例えば、家族なんかは特に危険だろう。

君はコレを甘く見過ぎている。

特に人を狂わせ自分を崇拝させる類の能力を。

君も当時の選挙は見ていただろう?

酷い有様だった」

残念ながら見ていない。

そんなに人気があるのか、こいつには。

………なきゃやってけないか。


アレだけ頭がどこかおかしいとしか思えない法律を作っておいて、それでなお総理を続けられるってのは、それだけこいつを盲目的に支持する奴が多いということだろう。


だが、それがわかったところで極論は極論だ。

今度は俺が質問し返す。


「じゃあなんだ?

お前はこいつ諸共一族郎党皆殺しにしろってのか?」

「するに決まっているだろう!」

こっちに唾が飛んできそうな勢いで、日高が叫んだ。

どう見ても正常な様子じゃない。


「あの後僕は考えた。

考えて考えて、やっと気がついた。

そうだ、何も殺したことを悔やむ必要は無いんだと。

殺せばなんでも解決するんだよ。

殺せばなんだって出来る。

なんでもなかったことに出来るし、ありえなかった筈の状況さえ作り出す事が出来る。

どうだい、殺しは万能だろう?

それだって、殺してしまえば全部終わりさ!」


……。

こんな世迷い言をのたまうようなやつだったか?

いや、そうだったら、こいつとは絶対親友になんかなれやしなかった。

ちょっといろいろあって、おかしくなってるだけだな。


「さあ、京ちゃん。

殺そう!

一緒に殺して回ろうじゃないか」

「ふざけんな」

「…今、何か言ったかい?」

「ふざけんなって言った。

お前だって本当はわかってんだろう?

確かに殺しで解決することだって世の中にはあるかもしれない。

だけど、殺しちまったらもうそれでおしまいなんだよ。

殺したら死ぬんだ。

死んだら生き返れない。

もう二度とそいつには会えねぇんだよ!

……こんなやつでも、桂木みたいな奴でもな、こいつを愛してる人が確かにいるんだよ。

殺しちまったら、そいつはどうなる?

どうなっちまうのか、お前にわかるか?」

「わかるわけないだろう?

君だって…」

「俺は携帯電話をぶん投げて壊した。

まだ物が相手だったから良かったものの、あの勢いで人を殴ってたらって考えると吐き気がする」

そうだ。

今迄俺は勘違いをしていた。

今の由紀乃も由紀乃だが、あの由紀乃に会うことはもう二度と出来ないんだ。


「殺すだの殴るだのする前に、まずはなるべく話し合いで解決しろって、学校で教わらなかったか?」

「ああ、いたね、そんな先生。

でも、今となっては馬鹿らしいよ。

君と話しているこの時間も馬鹿馬鹿しくて仕方がない」


日高が上着を脱ぐと、その中には大量の四角い物体が仕込まれていた。

なんだあれ?


「!?

なんなんだあいつは?

なんでアレを?」

おっさんがやけにオーバーなリアクションをする。

「おっさん。

アレがなんだかわかるのか?」

俺にはただの箱にしか見えない。

「わかるもなにも、ウチの、警備隊の非常用装備だ」

「で、結局何なんだよ」


「爆弾だ。

あいつ、ここら一帯を全部吹っ飛ばすつもりだ!!

全員走れ!!

死ぬぞ!!!」


おっさんの怒号が響き渡り、パニックが伝播する。

「ここら一帯って、走ってどうにかなるもんなのか!?」

「無理だ!!」

「駄目じゃねぇかっ!!」


日高がそれを手に取った。

「いや待て、まだどうにかなる!

嘉賀。

あいつの手から爆弾が離れたら、それを一秒以内に破壊しろ!

お前なら出来る!」

「高く買われたもんだぜ!」


爆弾がこっちに向かって投げられる。

向かう先は俺だ。

よし、都合がいい。

その場を動かずに拳を振るう。

バリンと箱が割れて黒い粉が飛び散った。


「ふう」

「キョー、落ち着く違う!

まだ!!」

っと危ねぇ!!

足元にもうひとつ転がっていた。

慌てて殴り飛ばす。

あいつ、二つ投げてやがった。


「さっすが京ちゃん。

よく出来ました!

それじゃあお次は…」

俺相手に遊ぶとは、日高も全くらしくなくなっちまったな。

くっちゃべっている間に、一気に距離を詰める。

日高自身を殴れば、それ以上爆弾を投げられることも無い。

俺の勝ちだ。


「そう来ると思ってたよ!

ほうら、取っておいで!」

俺の拳が日高の顎を捉える直前。

日高は真上に爆弾を放り投げた。


「ぐふあっ!」

日高は地面に倒れ伏す。

しかし、爆弾はもう投げられてしまった。

くそっ、いい投げっぷりだ。

俺の手が届く高度に落ちるまで、一秒以上は間違いなくかかる。


死ぬのか?

ついに死ぬのか?

みんな死んじまうのか?


「フラグは達成されました」


「え?」

いつの間にか直ぐ側にエイダが立っていた。

視界が暗転する。

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