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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
113/120

93”thteph-7-1”

「そこで止まって。

ここからは歩いた方が良いから」

「あいよ」

急停止に備えて体制を前に倒す。

横目でチラリと見ると、エイダは千梨を胸の谷間に挟んでプロテクトしていた。

あらゆる方面でグッドなジョブだ。


裏道を抜けて商店街を横切り、歩道橋を渡った先。

そこには小ぢんまりとした墓地があった。

「多分ここ」

ついて来てとでも言うように手を振って、玲子は先導して歩く。


「ああ、母様。

………私はまた少し長く、生きていくことができるようです。

…何を犠牲にしてでも、必ずや、必ずや生き延びてみせますとも。

ああ、母様のようには死にますまい。

死にたくない。

死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたく…」

どこからともなく響く不気味な呟き。

桂木の声だ。

「ほら……ここにいた」


桂木家之墓。

そう刻み込まれた墓石の前で、桂木は膝をついて天を拝んでいた。

虚ろな瞳で、死にたくない、死にたくないと何度も何度も、まるで念仏のように唱えながら手を合わせている。

俺たちには、全く気がついていない様子だ。

周囲を見回す。

黒いバンが停まっているのが見えた。

バンの窓は黒く塗りつぶされていて、中の様子が見えない。

桂木の護衛か?

だが、俺たちがさっき迄歩いていたルートを通れば、車では追って来れないはず。

他にはそれらしきものは何もない。

つまり、勝負を決めるなら今しかない。


なんだかんだ長くなってしまったが、それもようやくこれで終わる。

殴って気絶させればこっちのもんだ。

当初の計画とは大分違うが、まあどうとでもなる。

俺は音をたてないように慎重に歩いて、桂木の後ろに立った。

これで…。


「玲子、その男を殺せ」

俺の声ではない。

だが、男の声だ。

つまり、これは桂木の声だ。

まずいと思った時には、もう後ろから羽交い締めにされていた。

「キョー!?

…レイコ?」

「佐上さん? どうしちゃったんですか?」

耳にかかる荒い呼吸が生暖かい。

それは女の子の湿った吐息などという、ロマンティックかつエロティックなものではない。

本物の殺意が籠った獣の呼吸だ。


「玲子。

そいつらを、この場所に連れてきてしまったことは許そう。

ただし、その男を殺してからだ。

…私は今、怒っている。

そこで今その男を殺せば、特別に今回のお仕置きは無しにしてやろう」

玲子の呼吸が更に荒さを増す。

押し付けられた心臓の鼓動が早鐘のように鳴っているのを感じる。


「訳がわからないという顔をしているな。

最後だ、教えてやろう。

この桂木玲子は、私が私の身を守るために作り出した道具だ。

いやぁ、苦労したよ。

産まれたばかりの頃から少しずつ刷り込みをし続け、私の言葉を決して裏切らない道具へと育てあげるのは、本当に苦労した。

特に殺人に対して抵抗をなくさせるのには苦労したよ。

だが、今では本当に立派になった。

良く育ってくれたよ。

とても便利になった。

……おい、早くそいつを殺せ。

ナイフは持っているだろう?」


冷たい気配が背後に忍び寄る。

駄目だ、身体が動かない。

玲子の締め上げる力以上に、恐怖が俺の体を縛り付けていた。

「う、あ、あ!!」

風を切る音が聞こえる。

もうおしまいか。

俺は反射的に目を閉じる。

もちろんそんな行動に意味なんてない。

この場において意味のある行動なんて、今の俺には取れそうもなかった。


死に間際には時間の流れを遅く感じるようになるという話を聞いたことがあるが、どうやら本当だったようだ。

まだ痛みは届かない。

それとも痛みが届く前に、俺は死んでしまったのだろうか?

そうだとしたら、俺は玲子に感謝してもしきれない。

痛いのは嫌だ。

痛いのは怖い。

痛いのは嫌だ。

痛いのは…

「キョー!!」


「エイダ?」

目を開く。

俺のすぐ近くに、玲子以外の気配を感じる。

身を捻って玲子の拘束から抜け出す。

俺は死んでなんていなかった。

まだまだ死ぬわけにはいかない。

俺を羽交い締めにしていた玲子に、今度はエイダがしがみついていた。


「悪いな、玲子」

なるべく顔は傷つけないように、こめかみの辺りを殴る。

「うっ…」

玲子はエイダの腕の中で気を失った。


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