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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
112/120

92”thteph-6”

黒いドアが跳ね上がる。

ハンドルを握っていたのは、見知った顔だった。

「よう、子犬野郎」

昨日市役所で知り合った、大型犬の涼くんだ。


「また会ったな、我が同志よ!」

妙にテンションが高いのは、由紀乃のことで受けた精神的ショックの反動だろう。

「いや、ちげーし! マゾじゃねぇしっ!」

「本当だったら心ゆくまでプレイについて語らいたいところだが…」

「だから違うっつーの!」

「今は時間が惜しい。

…で、どこに連れてってくれるんだ?」


「はあ…ったく。

あっちの方だよ。

わりーけど、お前ら全員乗せるわけにはいかねぇかんな。

二人が限界だ。

じゃねぇと道交法で捕まっちまう」


二人か。

全員と顔を見合わせる。

エイダ、千梨、カナタ、清水、おっさん、鈴木、そして玲子。

よし、取り敢えず男連中は却下だな。

千梨は体のサイズを考えると一人には含まれない。

連れて行こう。

いざという時の為に、エイダは必要不可欠だな。

もっぱら精神安定剤としての運用だ。

あと一人…。

「エイダと千梨、それと玲子。

ついて来てくれるか?」

「ロゲル」

「っです!」


カナタが何やらブツブツと文句を言っていたが、由紀乃を与えたらすぐに大人しくなった。

帰ったら由紀乃に、ポテチでも奢ろう。

あとついでに指輪も。

何やらぼうっとしている玲子を車に詰め込んで、車はあっちの方へと走り出した。


「……なんで」

車がたてる音に掻き消されてしまいそうな声が、それでも確かに俺の耳に届いた。

玲子の声だ。

すっかりしおらしくなってしまった。


なんで、というのは、俺が玲子を選んだことに対しての疑問だろう。

「なんでもだよ」

「……なによ、それ」

「京之介さんって、なあんか玲子ちゃんのこと好きですよね。

…むむ、これは、アレですか?

プリンですか!?」

「プリュン……。

私、ネッツかける、好き」

「だああっ!

もう、お前ら静かにしろよ!

こっちは免許とりたてでガッチガチなんだよ!!

集中させやがれ!」

いや、知らんがな。

と、言いたいところだが、流石にシャレにならんので黙る。


……やっぱ黙れん。

「玲子。

お前、反抗期って言葉知ってるか?」

「…それが、何?」

「お前、今迄それになったことないだろ」

「………エスパー乙」

「エスパーでもなんでもない。

まあ、外れてる可能性もあるが、俺の経験則と客観的な観察に基づく推察だ。

…って言っちまうと、随分としっかりしたものに聞こえちまうから、ただの勘ってことにしとくか。

まあ、俺がまさしくそれだったんだ。

で、ハタチ過ぎた今になって反抗期に入っちまった。

その結果、多分もう二度と兄貴とは仲直り出来ない状態になった。

まあ、どっちかっていうと、兄貴の糞さ加減が悪いんだがな。

昔の俺は兄貴にべったりだった。

兄貴は見た目は俺にそっくりだったけど、なんでも出来たしなんでもやった。

本気で尊敬してたし、その隣にいる自分が嫌ですらあった。

まあその、なんでもやったってところが、あんまりにも糞だったことに、大人になってから気がついたんだがな」

悲しいかな。

その糞な部分は俺も引き継いじまったらしい。


「と、いうわけで、俺はあの糞兄貴が大嫌いだ」

「何が言いたいの?」

「まあまあ、もう少し聞いてくれよ。

俺と兄貴は二度と分かり合えない関係ひなった。

でもさ、でも、少なくとも俺はそれで良かったと思ってるんだ。

兄貴を大嫌いになれて、本当に良かったと思う。

兄貴が大嫌いで、そもそも兄貴がいたからこそ、今の俺が存在してる。

まあ、だから、こう……なんつうかな。

多分、桂木の言うことに一から十まで従ってきたであろうお前には、理解出来ない考えかもしれないけどさ」

そういうふうに躾られてなきゃ、親に頼まれてあんなキャラ付けまでして俺たちを騙すなんてことは出来ない筈だ。

ほんと、どうかしてる。


「親とか、兄弟を嫌いになることって、多分そんなに悪いことじゃないぜ」

「…………

……どうして、私にそんなことを言うの。

あなた達は、父さんの敵でしょう?」

「父さんの敵は私の敵ってか?

まあ、そう思うんならそれでも構わないんだけどさ。

別におかしくないだろ。

敵だっつっても同じ人間同士なんだから、会話ぐらいするさ」

「…………」

「それに、まあ、ぶっちゃけるとこっちに寝返ってくれないかな、という打算も無くは無い。

そうなってくれると、なんか嬉しいし。

俺、そういう展開に憧れてるんだ」

ちょっと気恥ずかしくなって、俺は頬を掻く。


「俺も犬っころの話にゃ賛成だな。

オカンがいろいろうるさくってさあ、ほんと良い反面教師だったよ。

おかげで保育士の免許が取れた」

「涼くん、お前…。

保育士とはまたいい趣味してるな」

「…流石にお前、それは冗談でも気持ち悪りぃぞ」

「なあ、ところで、あっちの方って具体的にはどこに向かってるんだ?」

「いや、適当だけど」

「…おい」

「正確な場所なんざわかるわけねぇだろ。

もう桂木を見たのは十分以上前なんだからよ」

一筋の希望の光が絶たれてしまった。

「もうだめだぁ」

もう後は人工衛生にでもアクセスして、上空から桂木を探すしかない。

んなことできたら、最初からなんの苦労もしなかったけどな。


「…曲がって」

「ん?」

「そこ、右に曲がって!

早く!」

頭がガラス窓にぶつかりそうになるところを、ギリギリで堪える。

免許取りたてってのは、嘘じゃないみたいだ。

「そのまま真っ直ぐ。

その後二つ目の信号を左折」

いや、そんなことより。

「…玲子、いや、佐上玲子!

お前って奴は…!!」

「ふふ、おかえりなさい、佐上さん」

「レイコ。

カツラギでもサガミでも、レイコはレイコ」


「…何よ。

……なんなんだよ。

もう…まったく……」

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