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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
110/120

90”rlathtoetion”

〜清水早苗〜


「はあー、ビックリした」

「貴女が持ち込んだ書類にゃ驚きましたが、流石にこりゃ比じゃないですわ」


書類を出していよいよ作戦が始まるという時になって、突然辺りが燃え出した。

担当の人と一緒になんとか逃げて来られたけれど、もう少し気がつくのが遅かったらと思うと……。


「あああ、ありゃ見事な燃えっぷりで。

燃えちゃってるなあ、こりゃ。

勿体無い」

「何か大事な物でも?」

「いやね、この前ニュースになってたでしょう、あの、ほら、青タイツの謎の男!」

「ああ、えっと、ありましたね」


突然青田さんの事が出て来て背筋が冷える。

変わり果てた青田さんの姿が、目の奥から離れない。

「実はね、あいつ、あっしの昔からの友人、というか腐れ縁みたいなもんで…」

「えっ?」


ビックリした。

けど、落ち着いて考えてみると何てことない。

実際にいま逮捕されたことになっているのは、青田さんの身代わりになった若い議員さんだ。

ちょっと歳は離れているように見えるけど、同じ桂木派同士仲が良くても不思議じゃない。


「まあ、驚きますよね。

あんなタイツ着た変な男、そうそういていいもんじゃあない。

あ、でも、結構いい奴なんですよ、青田は」

「えっ!?」

二度驚かされた。


「世間じゃ、なんか違う名前で報道されてますけどね、ありゃ青田の野郎ですわ。

あんな格好であんな事を言えるやつは、あいつしかおりゃあせん」

この人は、確かに青田さんの事を知っているらしい。


「あ、そんでですね、話が飛びましたけど、あいつは芸術家やっててですね、すんごい絵を貰ったんですわ」

「絵?」

「そうです、絵です。

もう一面真っ青な絵。

んでもそれだけじゃあない。

実にあいつらしい仕掛けがあってね、暗いところでブラックライトを当てるんです。

すると、本当の絵が出てくる。


色彩は凄い冷え冷えとしてるのに、なんだか暖かい絵でね。

テーブルを囲んでるんですよ。

そう、ちょうど貴女みたいな女性と髪の毛を横で結んだ女の子、あと特徴が無いようであるようななんとも言えない感じの男と、眼鏡かけてふんぞり返ってる男が」


京ちゃん達が会に来る少し前に、そういえば青田さんのタイツに、生地の色とは少し違った青色が張り付いている事があった。

「タイトルは…ん、なんだったかな?

信号?

ああ、そうだ。

『赤信号になる前に』ってタイトルだった。

変でしょ」

「変、ですね、とても」

「んでね、それをあっしが貰う時に、あいつ、こう言ったんです。

『これは今の私にとっての一番大切な物をただそのまま書き写しただけの愚作だ。

だが、例えそれが愚かだとしても、私は描いて、そして誰かに届けなければならなかった。

今、この絵の中の光景は崩れ去りつつある。

だから、私は遺さねばならない。

この絵の中の登場人物が、もし君の前に現れたら伝えてくれ…』

と」

「…続きは?」

「聞きますかい?」


にやりと、不気味な笑顔を浮かべて、担当の人は話を続けた。

「『もうやめにしよう。

それは人を傷つけてまで得るものではない。

…そう伝えておいてくれ』

とね。

その後にあんな事件があったもんだから、もうあっしはビックリで。

…ああ、勿体ねぇなあ、いい絵だったのに。

で」

ぐいっと、顔が近づいてくる。

「やめますかい?」


不思議と私は、落ち着いた調子で応えることができた。

「やめません。

私は人を傷つけたいんですから。

……そう、あの人に伝えておいて下さい」

元の人の良さそうな笑顔に戻って、担当の人は燃え盛る建物へと歩いて行った。


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