85"thteph-2"
〜嘉賀京之介〜
『清水さんは無事に所内に潜入…というには随分堂々としていますが、侵入しましたよ』
「了解」
『ところで、次はどう致しましょう?』
「鈴木は正面入り口前の群衆の中に紛れ込んで、何か変わった事があったら逐一連絡してくれ。
それと、カナタに裏口の方で騒ぎを起こすように指示。
エイダと千梨はそのサポートだ。
以上」
『了解しました。
ところで、清水猛さんとはお話しにならなくても宜しいのですか?』
ああ、そういえばあのおっさんはそんな名前をしていたっけな。
おっさんとお話し。
……成る程。
鈴木、お主もワルよのう。
「是非代わってくれ。
骨の髄までしゃぶり尽くしてやろう」
妙な間が空いたと思ったら、
『お前は一体俺に何をさせる気なんだ?』
もう既に交代済みだったらしい。
いらない茶目っ気だ。
「ああ、えっと、そうだな。
話が早くて助かる。
今日は非番じゃないんだよな」
『ああ、お陰様で大遅刻だ』
「それは、まあ、すまなかった…?
迷惑ついでにちょっと協力してくれ。
今から裏口近くのバス停まで来てくれないか?
それと、何が起きても俺が来る迄はそこを動かないでくれ」
『…わかった。
何だか知らんが、なんだってやってやるさ』
トランシーバーの電源を落とす。
バス停のベンチに座って、深呼吸をする。
大丈夫。
やれる筈だ。
ちゃんとそれ相応の準備もしてある。
だが念には念を入れよう。
俺は奇襲をかけられそうな潜伏場所を捜しに、人工の森の中へ足を踏み入れた。
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〜カナタ〜
「騒ぎを起こせと、アバウトに言われましても、ねえ」
「ねえ」
「キョー、時々、めんどくさがり」
「あ、そうだ、エイダちゃん、アレ」
「ドレ?」
「コレ!」
千梨ちゃんがエイダさんの肩の上で謎の小芝居を披露する。
あれはなんだろう?
お腹を押さえている。
「ああ。
ソルト」
塩?
エイダさんがハンドバックから取り出した物は、
「え、えええええ!?」
なんと剥き身の日本刀でした。
流石に予想外にも程がある。
大体どこでそんなものを手に入れたのか。
手に入れたとして、何故持ち歩いているのか。
そもそもアレだけ長い日本刀を、どうやってハンドバックの中に詰め込んだのか。
何もかもが謎だ。
「いやー、あの時京之介さんが殴り倒した警察の人が二本目を持っていて良かったですねぇ」
「こういう時、キョー、ゴツゴシュギ、オツ、言う。
召喚呪文?」
「さあ?
なんか強そうですね」
刀を構えるエイダさんも、とても強そうだ。
何故か物凄く様になっている。
あの外人さんっぽい雰囲気がそうさせているのだろうか?
少し羨ましい。
「じゃあ、コレ使って私がエイダさんに襲われている設定で演技しましょう
なんか滅茶苦茶不自然ですけど」
二人の話しについて行けそうに無かったので、作戦について提案してみる。
「いいですねぇ。
時代劇風にやりましょうよ。
このおさげが目に入らぬかあっ! って感じで」
「は、はは。
ややこしくなるんで、普通に強盗と被害者の設定で行きましょう。
まだその方が、ちょっとは自然だと思う」
「…強盗。
ハッ、早撃ち勝負!?」
「しません。
ってか、日本刀をどうやって撃つんですか?」
なんて話しをしているうちに、いつの間にか裏口の前へ辿りついてしまった。
「ええと、じゃあ、私がここで悲鳴を上げますんで、エイダさんは何も言わずにこっちに向けて刀を構えてて下さい。
千梨ちゃんは、うん、なんかゆっくりしてて」
「ぶうー。
私にも何か仕事を…」
「キャーッ!!」
ドタドタという凄い音がして、アメフトの選手みたいな体型の警備員さんが二人も飛び出してきた。
「「ぬあにごとくわあぁっ!?」」
そこらの強盗に襲われるよりも怖いかもしれない。
少し涙目になってきた。
「あ、あの人が私のバックを……って、アレ?」
振り向いた時には、二人とも地面に伸びていた。
代わりにそこに立っていたのは、頭に葉っぱを乗せたお兄様だった。
「えっと、お兄様?
一体どこから…」
「ああ、ちょっと木の上から飛び降りつつ殴ってみたんだ」
……………………………。
もう、紅玉の会はこの人一人でいいんじゃないかな?