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スタティオン  作者: quklop
”fautht” 若かりしあの頃の彼女と冷たい鉄格子
103/120

83”rlbinckdahed”

突如、周囲がざわめきたつ。

ゆきひろという固有名詞が微かに耳に入る。

そろそろ時間か。


…いよいよ最期。

そんな空気感がこの場を支配する。

そいつは喜ばしくないな。

「頭上げてくれよ、おっさん。

んで、死にゆく俺の雄姿を見届けておくれ」

「お前…」


その言葉に誰よりも反応を示したのは、俺の予想通りカナタだった。

「ちょっ!?

さっきちゃんと帰ってくるって言ったじゃないですか!

帰ったら、昔のこと、話してくれるって…」

「待て、ストップだ!

その言葉は縁起が悪い」

「えん、ぎ?」


俺は靴を脱いでベンチの上に立った。

これは、行儀が悪い。

「皆の者、死亡フラグという言葉を知っているだろうか?

ある者は、『生きて帰ったら、結婚しよう』…そう恋人に言い残して戦場で儚く散った。

またある者は、『ちょっと田んぼの様子を見てくる』と言い残して用水路の中で溺れ死んだ。

ベネットについてはどうでもいいな。

これらの台詞に共通していること、それは、自分が生きて帰ってくることが前提の台詞だということだ。

そして、ここからが本題だ。

…俺が思うに、これらの正反対のこと、つまり死ねと他人に罵られながら戦地に赴けば…………………………

生存率は、飛躍的に上昇する」

シリアスな空気が一変し、俺に集まる視線の意味がみるみるうちに変わる。

何を言っているんだこいつは。

誰もが表情でそう語っている。

呆れ果てている。

そうだ、それこそ俺が欲しかったものだ。


「じゃあ死ね」

「おうふっ」

カナタからストレートかつ痛烈な一撃が飛んでくる。

……やばい、つい顔が綻んでしまう。

「きょ、京之介さん。

なんでそんなに嬉しそうなんですか?

こんなに気持ち悪い人だったなんて…。

死んで下さい、この変態野郎」

「くふぅっ」

普段は割と大人しめな千梨が、俺を変態野郎と罵っている。

…感動的だ。

「昔から、もしかしたらとは思っていたが…。

まさか、ここまでとはな」

「いえすっ」

さっきまで頭を下げられていた相手に、今は蔑みの目で見下されている。

おっさんなのに、惚れちまいそうだ。

「死ねい」

「死んじゃえ」

「死んで下さい」

謎のしねしねコールが湧き上がる。

「「「「「「「死ねっ☆」」」」」」」

「くわらばっ!」

なんか二人ぶんくらい余計に声が聞こえるが、そんな事気にしてる場合じゃねぇ。

皆が、日本が、世界が俺を蔑んでいる。

「テンションぁあがってキタアアアァァァーッ!」

コールは止んで、代わりに謎の歓声が俺を迎えてくれた。

「よし、じゃあちょっと死んでくる!

またなっ」


向こうの方のざわめきが、大きくなってきていた。

俺はデジカメを握りしめて、一人敵地へと赴く。

……予定だったのだが、何故だか二人分の足音がカツンカツンと鳴り響く。


「京之介さん、エイダちゃんがどうしても伝えたいことがあるみたいです」

「なんだ?」

後ろから強く抱き締められた。

ふわふわの髪の毛が頬をくすぐる。

「キョー、死ぬ」

「…そうだな」

「けど、キョーなら…生き返れる」

「その通りだ」

勿論俺だって生き物だから、そんなはずはない。

だがまあ、何と無くこいつに言われると、本当になんでも出来るような気がしてくる。


「……もしかして、心配させちまったか?」

向き直って背伸びをして、わしゃわしゃとエイダの頭を撫でる。

「何度殺されたって、何度でも生き返ってやるさ」


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