81"tuarleck"
「じゃ、そろそろ行くか」
これから一つの国家に対してテロを起こそうとしているなどとは、微塵も感じさせない程の軽さで俺は切り出した。
…出せてるだろうか?
あいつのようにはいかないな。
手に持つのは剣でもペンでもなく、俺が大学で学んだ技術を最大限に活かし消音加工を施したデジカメ。
向かう先は魔王桂木が座す城、桂木警備隊本部。
そこのけそこのけ、勇者様ご一行のお通りだ。
と、ここで一つ重大な問題に気がつく。
「ところで警備隊本部ってどこにあんの?」
ズコー、という効果音が聞こえてきそうな具合に、俺以外の全員がつんのめる。
エイダは多分皆の真似をしているだけだろう。
「お、お兄様。
そんなことも知らずに、今迄こうしてきてたんすか?
っていうか、一応日本国民なんだから知っておきましょうよ」
「テロリストが国民を名乗るのはどうかと…」
「ああ、もう。
…あの馬鹿の友達してただけあって、ほんと変なところがめんどくさいっすね、お兄様は」
「その通り、俺は面倒な奴なんだ。
それで、本部はどこにあるんだ?
どんな電車に乗ればいい?」
「電車なんて乗らなくても…あっほら、見えてきましたよ、アレが桂木警備隊本部です」
近いな、魔王城。
ラストダンジョンを前にしてやるべきことと言ったら何だ?
装備やアイテムの整理か?
仲間の編成か?
いや、違う。
どちらも、もう済んでいるし、由紀乃を含めて作戦もしっかりと伝えてある。
ここから先はそれぞれの個人プレイだ。
最後にやっておくべきこと。
それは、会話イベントの消化だ。
「カナタ」
「なんでしょう?」
「まあ、お前についてはいろいろ聞きたいことがある。
なんでお兄様だなんて呼び方をするのか、とか、なんであんな家に一人で住んでるのか、とか、何でこんな組織に入ったのか、とか。
でも、時間が無いから、一つだけ一番大事だと思うことを聞かせてもらうぞ。
俺は…怖いか?」
カナタは首を横に振った。
「確かに、まだ何も貴方のことは知りませんし、昨日も話を聞きそびれちゃいましたけど…そんな話をしようとしてくれたってだけで、カナタにとっては合格です。
それによく知らないのはお互い様ですし。
…だから、帰ってきたら、ちゃんと貴方のことをカナタに教えてくださいね、お兄様」
少し語尾が震えているのには、気がつかないフリをした。
「ああ。
ちゃんとお前のことも教えてくれよ。
じゃあ、次だ。
清水」
「どうせ二番手ですよーだ」
「お前にも質問がある。
これから俺たちは桂木政権をぶっつぶす。
俺じゃなくて本当だったら日高が言うべきなんだろうが、ここから先は今迄の活動とは違って、具体的で決定的だ。
本格的におっさんの方の清水と敵対するというわけだ。
…本当に良いのか?」
ふふっ、と清水が笑う。
「実はそれについてなんだけど…」
何時からそこにあったのか、道路の脇に駐車された黒い車のドアが開いて、そこからおっさんの方の清水ことおっさんが姿を現した。
冗談じゃねぇぞ!?
俺は咄嗟に身構える。
あのおっさんは敵だ。
今の俺は犯罪者も同然、さくっと殺されかねない。
ところが、おっさんは刀を抜くこともなく、ただただ呆然としていた。
「おい、早苗。
これはどういうことだ?
なんでお前が嘉賀なんかと…」
「もう、やめにしましょう?」
「…何のことだ?」
「一つしか無いでしょう」
おっさんは疲れた様子でベンチに座り込んだ。
「早苗、前も言ったよな。
あの仕事は俺にしかできない。
そもそも、仕事を降りた時点で俺は犯罪者扱いだ。
そういう法案がもう既に通っている。
だから……俺がやるしかないんだ。
それともなんだ? そこの小僧共が革命でもおこしてくれるのか?」
清水夫婦のものを含めて、俺に視線が集まる。
正直話の流れについていけない。
が、しかし何を期待されているのかはわかる。
俺は辺りを見回して、周囲に人通りが無いことを確認してから、こう言い放った。
「なんだかわからんが安心しろ。
俺たち紅玉の会が、今日をもって必ず桂木の奴をぶっとばす。
まあ、実を言うと俺自身にそれほど確固たる意思があるわけではないが、こいつらと今牢屋に閉じ込められてるはずの奴の殺気は本物だ。
だから絶対成功する」