砂漠の夜とモブの受難 1
ミケインに案内され、私たちは夕食前にとりあえずそれぞれの自室を確認し、着替えてくることにした。昼の働きに感謝され、夕食は王太子とミケインと共に取れるらしい。有難迷惑とはこのことである。
与えられた横並びの5部屋は決して広くはないが、上質な家具類が揃えられ、大量の生活必需品や衣類、防火金庫には武器と弾薬もそろえてあった。まあでも衣類は、制服が一番安全だからそれに着替えよう。多分みんな制服の替えを持ってきてるだろう。
そう思って部屋を出たんだけど。
「…なっ」
「あ、マリー!」
「かわいいいいいい!フェリス可愛い!」
「えへ、ありがとう」
「可愛…いやっでも、その服大丈夫なの?」
「何が?」
「防弾とか、耐衝撃とか…?」
「ああー、だっていつも強化魔術と防御魔術、掛けてるし。大丈夫だよっ」
「まあそれはそうだけど…大丈夫かな」
「マリーも、ドレス着れば良かったのに」
「いやー、私は」
モブ顔ですからね、着飾っても仕方ないですよ。
後半は言葉に出さず、私は微笑んで見せた。くっそー!世の中不公平だ。すると隣の扉が開き、ジョンが出てくる。
「おう…おお、すごいじゃん、フェリスの服!」
「えへへ」
「あー!俺も違う衣装にすればよかった!」
「着替えてきちゃえばー?」
「や、まあいいわ」
お前もモブ顔だしな…制服が一番だよ。何も言わなくても、分かるよ君の言葉の続きが…そう思う私の前で、もう2つの扉が同時に開いた。やっぱ君たち、気が合うじゃん。
「やあ」
「…」
ふふん、と前髪をかき上げたのがリストで、無言なのがクロムだ。クロムは制服で、リストは部屋にあったらしいえんじ色の正装を身に着けていた。どこの貴族だこいつ…いや、そういえばまじで貴族だった。
「良いドレスだね、フェリス」
「リストも似合ってるー」
「まあね。僕は侯爵子息だし?どこぞの武骨な騎士団長の息子とか平民とは違うから」
「リストったら、またそんなこと言って…」
はいはいおっけー通常営業。クロムドンマイ!そう思いながら振り向くと、意外にクロムは無関心そうな顔をしていた。というか、心ここにあらずっていうか。振り向いた私にはさすがに気づき、少し首をかしげる。
「…なんだ?」
「い、いやあ…なんでもないよ…制服も悪くないよね!」
「…そうだな」
「そうそうー、安全第一ってのも人生の一つのありようだよね」
「…ああ」
クロムは悪い人ではないけど、会話が弾むことはあんまりない。っていうか喋るの遅いんだもん…クールとかじゃなくてまじで単なる脳筋(つまり脳まで筋肉で頭の回転がよろしくない)?と私も思ってしまったことがある。でも、体術だけでなく戦術も得意だというから頭が悪いわけでは…でも戦術は脳筋の領域だな。まあいいか。
「ま、僕が貴人宅での夕食の手本を見せるから、アンタらは僕のあとからついてきて同じようにしなよ」
「はいはいおっけーリストさいこー」
「何だ、やけに素直だなマリー。分かればいいんだよ」
「え、もしかして本心から言ったと思ってるの?もうやだこのひと」
「はあ!?」