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The Chamber Actors  作者: snow
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死線外の演者たち 1




『ルーゼン軍に告ぐ!即刻武装を解除しろ!ルーゼン軍に告ぐ!即刻武装を解除しろ!』

「なにあれ」

「わかんね」

「…?」


 空から唐突に現れた闖入者に、思わず私たちは攻撃の手を止めてバリケードに隠れ、ほんの僅か明るみを帯びた空を見上げた。強化視力ではっきりと視認できるのは、頭上を旋回している銀色の…戦闘機?軍用らしきヘリもいる。それも合計で十数機はいる。なんだあれ。

 いや、ルーゼン軍でなく私たちに武装解除を要求するなら、まあ、絶望度が増すとはいえ分かるんですけど。王宮の戦力かなって思うんですけど。呆然とする私たちの上から、再び声が降ってくる。戦闘機の騒音よりもうるさい、拡声器越しの声。


『我々はセント・エトワール王宮軍、二番隊である!』

「えっ?」

「え、王宮軍?え?」


 セント・エトワール王宮軍。技術大国であり、魔術大国であり、さらに精鋭傭兵団ソレイユを抱える軍事大国でもあるセント・エトワール国の、その頂点を仕切っている王宮の、直属軍である

 まさにエリート中のエリート。セント・エトワール国立傭兵学園を卒業した正規ソレイユの、その中でも特にトップクラスの人間を集めて作られた軍だ。私とジョンとか…いや、今後も頑張れば入れる可能性がゼロというわけではないが…入れたとしても最底辺間違いなしである。


 私とジョンがぽかんとする横で、ヴィクトールは喜色満面で両手を上げた。


「ノキアです!!」

「えっ…ああ、えっ、まじですか?」

「まさか、王宮軍まで動かして、助けに来てくれたんですか?」

「そうですよ!二番隊ですから!良かったああ!」

「えええ…」

「うっそお…」


 他国の事情に対して国軍が動くというのは、相当な事態である。どの国でもそうだが、特にセント・エトワールは、世界有数の武力を持っているが故に余計に、なるべく王宮軍を動かせないようになっている。はずだ。あれだけ介入に手こずっていたのに、たった2日で王宮軍まで手配できるなんて。なにそれすごい。教官ってすごい。


 上空のヘリから、次々に人影が飛び降りてきて、私たちとルーゼン国の戦力の間に着地した。戦意を喪失したらしいルーゼン軍が全く撃ってこなくなったので、バリケードからそっと顔をだしてそれを伺う。隙のない身のこなしに、最高級の装備品。整列して陣形を取り、ルーゼン国側に銃器を向けている。


 か、かっこいいいいい!王宮軍かっこいいいいい!


「うっわ…生で見れるとは」

「かっけー王宮軍かっけー」

「貴方たちも入るんじゃないんですか?」

「いやいやヴィクトール、分かってませんね」

「あれは本物のエリートなんですよ」

「ですが…あ!」


 こそこそと感想を述べる私たちに何かを言いかけたヴィクトールが、途中で言葉を止めて声をあげた。その視線の先では、短い黒髪の人物が着陸したヘリから降りるところだった。金銀の刺繍が施された、豪奢な黒いマントを翻している。


「ノクタニア!」


 ヴィクトールの声に、マントの男がこちらを向き、すぐさま大またで歩み寄ってくる。黒を貴重にした軍服の胸元に、数えるのも面倒になりそうなほど勲章がついていた。やばいこれ、超えらいひとじゃね?ヴィクトール、たぶん呼び捨てにしたよね?だいじょう…あっこの子こう見えて王子だった。大丈夫か。


 混乱する私をジョンを、近くまでやってきた男性が見下ろす。とりあえず敬礼をとって、私はその顔を見返した。どちらかといえば甘い、上品で整った顔立ち。高貴すぎて少し傲慢な、強い光を持った金と銀のオッドアイ。ジョンが小さく呟く。


「……ヴィクトールじゃねこれ…」

「こっちが本物か…騙された」

「違います!ヴィクトールは私です!」


 わたわたと言うヴィクトール(仮)に、男性はあきれた視線を向ける。


「お前んとこの魔術師、俺の顔知ってたんだっけ?」

「え?多分、知ってましたよ」

「なんで俺に似せてきてたんだろうなあの猫は」

「それは分かりません…単に、私の印象とかけ離れたものにしようとしただけかも」

「ふうん…まあいいけど」


 ヴィクトールとジョンと私を見回して、男性はため息をついた。なんかすごい、見たことある気がする。声も聞き覚えがあるような気がする。何だろうこの感じ…懐かしい。気が抜けそう。


「とにかく、お前らのせいで超忙しかったから超疲れてんだよ俺は…アレクセイお前、一番良いホテルに顔利かせろよ」

「…ノキア先生?」


 私の問いに、そうに決まってんだろ、と先生はこともなげに答えた。




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