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The Chamber Actors  作者: snow
44/48

3



 隣室に眠っていた王をヴィクトールが文字通り叩き起こし、私たちは塔のらせん階段を駆け下りる。吹き抜けなので一気に中央を跳び下りる、という手も考えていたのだが、すでに塔の1階は兵士に溢れ、階段を上ってこようとしているところだった。階段の幅は人3人分くらいか――人数の少ないこちらに有利な地形条件だ。


 王と王妃はヴィクトールに任せ、私とジョンは全速力で階下へ下った。先頭を走りながら、ジョンが拳銃を抜く。こちらに照準を向けようとしていた相手の先頭6人を撃ち抜いて、


「撃ってくる気だな」


と小さく呟いた。相手も、生け捕りにしようと向かってきているわけではないらしい。さほど手加減は出来ないってことだ。私は両手で印を組む。まずは、塔の出口まで押し戻す必要がある。


「エ・ラプシオン!」


 印を組み終えて階下に向けた両手の掌から放出される轟音と火炎に押し流され、階段から一気に相手が後退する。だが半数近くがすぐに立ち直り、またこちらに向かってきた。本来なら――一般人相手なら、即座にまとめて消し炭にする威力の魔術なんだけど。


「耐魔術装備か…障壁か」


 どちらかは張られている。まあ、魔術師であるヴィクトールがくることが分かっていたなら、そのくらいは当然の備えだろう。最上階に詰めていた警護兵は、本当にただの飾りだったらしい。走りながら、倒れている兵が落としたらしいライフルを拾う。構えて、敵前線を6人ずつ確実に減らしていく。防弾は大してされていないみたいだから、銃を使えば簡単だ。


 敵もこちらに撃ってこようとはするが、人数が多くても道幅が狭くては味方が邪魔で撃ちにくいのだろう。ていうかそもそもあまり、練度の高い敵ではないようだ。だが、1階に近づいたことで、そこからの射撃が鬱陶しくなってきた。ジョンが後ろを振り返って声を張り上げる。


「1階に顔を出さないで!壁に沿って下ってください!」


 そう言って自分は1階に照準を向ける。私はその横を駆け抜けて、階段上に来ている敵の前線に火球を叩きこみ、起き上がる相手は銃弾で始末する。そして1階まで到着した時には、そこに溢れていた十数名は動かなくなっていた。だが、塔の入り口からはどんどん次の兵士が入り込もうとしている。多いな。


 もうしばらくかかる。そう判断し、私は1階にあるテーブルを蹴り飛ばして倒した。恐らく塔の見張りの人員の食事に使われていたのだろう、長方形の大き目のテーブルだ。


「この陰に!」


 即席のバリケードに隠れ、私はヴィクトールと王たちを手招いた。ジョンは隠れずに、上半身を完全にテーブルの上に出して、塔の入り口に殺到する敵を殲滅している。広い入り口ではないし、撃たれる前に撃てば良いのだから、彼にはそう難しいことではない。

 ポーチから触媒を取り出し、テーブルに垂らして防衛魔術の印を組む。これで、立派なバリケードだ。よし。


「ヴィクトール、脱出路は?もっと向こうならバリケードごと移動します」

「いえ、この…あたりですが」


 ヴィクトールは塔の床に手を当てている。通路を開く魔術かなにかの発動ポイントを探っているのだろう。私もジョンの隣から顔を出して敵の殲滅に加わろうと思ったが、


「……」


必要なさそうなのでやめた。入り口に来た兵が順番に撃たれているだけだ。持って居る銃器を構える前に、ジョンに撃たれてばたばたと倒れていく。


 バリケードの陰に戻り、念のため、倒れている兵士からライフルをかき集める。集めながらヴィクトールに視線をやると、彼は顔をゆがめて、おかしい、と呟いた。


「どうしました?」

「脱出路が作動しません…この、塔の床…魔術遮断されているかも」


 魔術遮断…プロンブ鋼か。相手がヴィクトールを警戒していたなら、魔術の効果を大幅に軽減させてしまうプロンブ鋼で室内を覆ってしまうのも、そう有り得ないことではない。確かに言われてみれば、塔の内壁はかなり真新しく見えた。魔術による塔の破壊には苦労するだろう。


「脱出路もばれていると?」

「分かりません…塞がれているのか否か」

「了解」


 頷き、集めたライフルで床の一点を狙ってフルオート射撃する。しながら片手の指先で印を組み、銃撃で空いた穴に手を当てて、


「フ・ラム!」


火球を叩きこむ。土煙をあげながら、床が部分的に、吹き飛ぶように捲れあがった。はがれた床の向こうは、ただの地面だ。隠し通路と言うなら、扉か…せめて穴にはなってるだろう。


「ここじゃないですね」

「な、何を」


 驚くヴィクトールに顔を向ける。


「魔術遮断、プロンブ鋼ですね。銃弾か何かで傷をつければ、傷のすぐ近くから攻撃することである程度は効果を与えられます。このあたりの床を破壊して脱出路を探しましょう。ヴィクトールもできますか?」

「こ、攻撃魔術、ですか…」


 どうやら、使ったことがないらしい。私は頷いて作業に戻ろうとするが、そうする前にヴィクトールは身を乗り出してきた。


「いえ、できます!」


 即座に印を組み、私の開けた穴の隣に手を当てる。轟音と共に、私よりも倍近く巨大な火球が、床を大きくえぐった。おおお。ちょっとびっくりするじゃない。魔術素養が高くて、しかも魔術の訓練ばかりをしている人間の攻撃魔術の威力ってすごいんだな。感心する私に、ヴィクトールは弾んだ声で言う。


「あっ…ありました!」

「さすがです、ヴィクトール。じゃあ脱出を」


 ヴィクトールが破壊した床の下に、人1人くらいが通れるであろう穴がぽっかりと口を開けていた。王、王妃、ヴィクトールの順に、その穴から下ってもらう。それから振り向いて、いつの間にか武器を拾いもののライフルに変更して撃ち続けているジョンに声をかける。


「行こう」

「了解…ん?」

「どしたの」

「敵が撤退した」

「え?」


 入口を見ながら、ジョンが不可解そうに首をかしげる。撤退?確かにかなり打撃を与えたし、近づかせてはいないけれど、諦めさせるほどでは…そう思い首をめぐらした瞬間、ばしん、と強烈な発射音がした。




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