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The Chamber Actors  作者: snow
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モブ達の非日常的な日常 1



 結局、ヴィクトールが眠りについたのは朝方近くになってからだった。それから3時間程度の睡眠を経て、私とジョンは起き上がる。軽いストレッチで体をほぐしてから、銃の点検をする。食料もそうだけど銃弾もあんまりないよね、と私が言うと、ジョンは顔をしかめて頷いた。


「そう…だから基本的にナイフ戦だな…」

「超苦手」

「俺もあんまり好きじゃない」

「せめて中剣、持ってきとけばよかった」

「だよなあー、まさかこんなことになるとは」


 実戦訓練中には持ち歩く武器が定められているわけではないから、私は小型拳銃を、ジョンは大型拳銃とそれに継ぎ足して射程を長くするバレルしか持っていなかった。銃弾の予備もあまりもっていない。今までの経験上は全く必要なかったからだ。猫探しの依頼がこんなことになるなんて、いったい誰が予想できようか。いやできまい。

 銃弾の節約のためには、制服のブーツ横に常備しているブーツナイフを使うしかない。でも本当に自慢ではないが、私はモンスター相手の近接ナイフ戦闘は全然だ。成績下から数えたほうが早い。ジョンはまあ、中の上くらいじゃないの?確か。中剣の方がナイフよりはやりやすいだろうと思うのだが、私もジョンも携帯する習慣がなかった。だって使わないと邪魔だからなあ。


「不安になってきたね」

「死ぬかもな」

「割とリアルにありうる」

「いやあ、銃弾なしだと使えねーな俺たち、ははは」

「や、やめて傷つく!」


 クロムだったらいつも大剣を携帯しているし、仮に無かったとしてもナイフでも格闘でも中剣でもなんでも得意である。リストも、やりたがらないだけで余裕だろう。フェリスはフェリスだから許す。それに魔術メインの後衛だし問題ない。うん。

 つまり、学園上位メンバ―の中で物資不足の状況が一番堪えるのは、銃が基本攻撃である中衛の私とジョンということになる。ヴィクトールってば不運だなあ。切ない。


「わ、私はまだ…ま、魔術とかも、そこそこ得意だし…!」

「や、やめろよ傷つく!」

「そっちが先に言ったんじゃん」

「すいませんでした」


 ないものねだりをしても仕方ない。私とジョンはため息をついて、ブーツナイフを抜く。これだって、ソレイユ候補生への配布武器なのだ。品質は技術先進国であるセント・エトワールでも最高のものである。


「ナイフ、練習しよう」

「おっけ」


 ジョンが頷いたので、一呼吸おいてから斬りかかる。軽く弾かれたが、その軌道のままでもう一回転して再び刃先を相手へ。身を沈められたので手を下方に修正しながら、こちらに向かってきたナイフを時計で弾いて受け流す。ジョンは少しだけ驚いた顔をしながら、首を後ろに振って私のナイフを完全に避けて、上へ切り上げる。右に体をひねってそれを避けて、もう一度…


「にゃああああ!」

「ぎゃー!」

「わー!」


 鳴き声に軌道が狂って、刃先が制服でなく顔面に向かってしまった。危ない、と思うより早く手首を掴まれて止められる。くそう、余裕じゃないか!分かっていたことだけれど、部屋がこう狭くなくて、武器をナイフに限定していなかったら、近接戦闘で私はジョンの相手にはならないだろう。

 掴んだ手をそっとおろしてから、ジョンはヴィクトールに向き直った。


「おはようございます、驚きました」

「こ、こ、こっちが驚きましたよ!どうしたんですか!」

「練習です。すみません、うるさくして」

「いえ…うるさかったわけではないんですが」


 困惑した様子のヴィクトールに、ジョンは、ああ、と頷く。


「すみません、ナイフを普段あんまり使ってなくて。練習が必要かなと」

「はあ…」

「銃弾があまりないので、銃はもったいないですからね」


 ナイフをしまい、ヴィクトールとジョンとともに、机と端末と、ソファのあるリビングルームに向かう。まずは洋服を調達したい、と言う私たちに、ヴィクトールは納得したように頷いた。


「確かに、その制服は目立ちますね」

「やっぱりそうですよね…」


 ルーゼンでもそれなりの知名度はあるらしい。せっかくの防御魔術や強化魔術の編み込みが利用できないのは惜しい気もするが、仕方ない。ジャケットとボトムスだけどうにかすれば、シャツやブーツは使えるだろう。

 ジョンを部屋に残して、今度は私がヴィクトールと外に出ることになった。適当な衣類と朝食を調達すると、残金はもう数日食事をする程度しか残っていない。銃弾を買うなんて夢のまた夢である。牛乳買ってる場合じゃない。まじで。



 買ってきたサンドイッチを皿に並べ、コップに牛乳を注ぎながら、私はジョンに宣言した。


「牛乳は1日200mlで我慢するように」

「え?俺は別に…いらないけど」

「え?」

「お前が飲めよ」

「なんで?いやまあ、私も飲みますけど」

「なんでって…なんだろうな、もうちょっとこう、丈夫になった方が」


 ああ、なるほど、近接戦闘の話か。確かに今の状況では、近接戦闘は苦手なもので…なんて言っている場合じゃないだろう。でもなあ、牛乳飲んだからってそうすぐに強くなるわけではない。長い目で見れば骨は硬くなるのかもしれないけれど…そのころには、この話は片付いて国に戻って十分な銃弾が手に入っているか、この話が片付かずに私は死んでいるか、どっちかだ。


「すぐに効果が出るわけじゃないじゃん」

「まあ…そうなんだけど」

「その点に関しては、魔術をしっかりかけてカバーするから」

「しっかり?」

「そう。集中して、強化魔術を常にきっちりかけとくようにする」

「そう…ならまあ安心…か?」

「安心だよ!」


 私は請け合うが、ジョンはまだ不安そうな顔をしていた。こっちに来てからどうも、私の骨に関してやけに気にかかるらしい。…ルーゼンに来て、気持ちがナーバスになっているんだろう。ホームシックみたいなものか。意外に軟弱。

 ジョンとは十分に信頼できるパートナー関係だと思っていたけれど、まだまだかもしれない。そう思うとちょっと寂しい気もした。




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