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戦闘実技訓練での依頼対応の時は、特に集合する必要はない。電光掲示板に班のメンバーと、対応する以来の番号が掲示されるので、メンバーがそろったら依頼室で依頼内容を確認して受けて、達成したらノキア先生に報告。
恐らく、ノキア先生の仕事をなるべく減らすための措置だろうけど、生徒としても楽だ。
私は今日もジョンと2人でツーマンセルだった。そろそろ飽きるんだけど、ノキア先生は私とジョンがしょっちゅう組んでるのを覚えているのだろうか…余りを組んだらこうなりました、ってなってるんじゃないの?…いや、さすがにそれはないか。サンズに選抜するときに、実力はどうのとか言ってたし。
とりあえず自分の準備をしようと寮に続く廊下の方へ向かうと、遠くの方にジョンらしき人影が見えた。多分だけど。いや、別人である可能性も大いにある。なにせ、先日は顔すらあまり思い出せなかったのだ。後姿とかムリゲーである。まあでもジョンだろうな。
ジョン(たぶん)は、寮にまっすぐ行かずに寮の裏手へと続く方向へ行ってしまった。寮の裏手なんか何もないのに、何しに行くんだろう。とりあえず集合時間だけでも決めておくか、と思ってその後姿を追う。
そして。
「あの…良かったらスミス先輩と、お友達になりたいなあ、って」
「え!?」
「(え!?)」
まじで?
おろおろするジョンの前に立っているのは、下級生らしい可愛らしい女子生徒だった。遠めにしか見えないけれど、髪は本当に癖のないまっすぐな黒髪で、サラサラツヤツヤである。色が白くて、折れてしまいそうなほど華奢な感じ。おおお。すげええええ。ジョンすげええええ。
わくわくしながら、私は気配を殺して様子を伺った。いやそういうんじゃない。野次馬的なアレではない。こう、ジョンと打ち合わせしなきゃいけないし、かといって邪魔するのはどうかと思うし、これがベストな選択である。そうだろうそうだろう。
「いや…俺でよければもちろん」
「本当ですか!?嬉しいです!あ、これ私の、プライベート用の通信番号です」
「え!?ありがとう」
「良かったら、スミス先輩のも教えてください」
「ああ、うん」
プライベート通信番号交換。ジョンにこんな日が来るとは思っていませんでした。神様ありがとう。ジョンの代わりにお礼を言っておきます。
にやにやしながらそれをうかがい、もうすぐ授業時間だから、と言って女子生徒が立ち去ったあとにこっそりと物陰から姿を現した。いまだにしげしげと通信機を眺めていて、こちらに気付いていないジョンの肩をたたく。
「やあ!」
「うわ!」
「いやー、いくら安全な学校内とはいえ、ぼんやりしすぎ」
「え、あ、だって…いやなんでもないけど」
「いやいや、見てましたから」
「えっ!?」
「むしろ見ていないはずがないよね」
「え、いつからいたの?」
「スミス先輩とお友達に、あたり」
「ほぼ最初ー!」
顔を両手で覆うジョンの肩をたたきながら、私はなぐさめの言葉を口にする。
「良いじゃん、むしろ自慢すべきシーンだったんだし」
「うーん…」
「本当だったんだなあ、ノエルの話」
「え、なに?ノエルの話って」
そろそろ依頼室に向かわないと。とりあえず準備をするために寮の表玄関側に向かいながら、私は今朝ノエルに聞いたばかりの話をジョンに教える。サンズ選抜メンバーが、下級生の憧れになっているという話だ。単なるブームかもしんないけどラッキーだよね、と言って話をしめくくると、ジョンがやけに納得した表情で何度も頷く。
「なるほどね…そういうことか」
「ん?」
「さっきの子さあ、リストかクロムに…こう、用があるんじゃないの」
「え…はっ!」
「あー絶対それだわ、間違いねーわ」
「確かにそんな気がしてきた」
「もおー!最初で分かれよ、モブ仲間だろ」
「私としたことが…無邪気に喜んで傷を深くしてごめん」
「いいよいいよ」
死んだ目をしたジョンが快活に笑うので、ちょっと申し訳なくなった。でも仕方ないことだ。これも宿命である。




