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夕食は大変おいしかった。学食も悪くないけど、やっぱり大量生産な、特徴のない味ではある。たまにはおいしいものを食べるのも良いね!
でも今日行ったお店は、私にとってはやっぱり相当にお高かった。候補生の生活はほぼ保障されているし、任務をこなせば余分な給与ももらえるけれど、あくまで学生扱いなので贅沢できるわけではない。よし、頑張って貯金するか。
また食べるために貯金しようと思います、と隣を歩くリストに言うと、彼は呆れたように笑った。貯金が必要だなんて貧民ってマジ哀れ、とでも思っているのだろう。
もうすっかり学食の営業の時間も終わり、ほとんどの学生は明日に備えて寝ている。廊下は静かで、照明も最低限で、こつこつと2人分の足音だけが響いている。
普段にぎわっている場所が静まり返っていると、他のみんなはもうここにはいないんじゃないかって、そう思ってしまうことがある。夜の学校とか、早朝の街とか。気分を紛らわすため、私はリストに笑いかけた。
「ありがとう、本当においしかった」
「ふふん、まあ、そうだろうね」
「ハハッ(調子が出て何よりだわ)」
「また連れてってやるよ」
「うん、節約しとくわ」
「?しなくていいだろ、連れて行くって言ってるんだから」
「え?だからお金がいるじゃん」
「はあ?」
「なに、リスト、話聞いてた?」
「そっちこそ話聞いてたの?」
怪訝な顔を見合わせて、同時に吹き出した。
「いや…死線を潜り抜けると、仲良くなれるね」
「そうみたいだな」
「うっわあ、なんか素直で怖いわ…」
「なに、なんか文句ある?」
「ないですないですけど…こう、上から目線でふふん、って言っている姿に慣れ過ぎてて」
「あー、まあね」
「今日はなんかお行儀良いよね。きちんとこっちを見て話している」
「…」
「そうだよこれまでがどんだけね…君の礼儀が小学生レベル以下だったかっていうね!」
「そうだな…ま、僕がアンタに礼儀を払う必要はないと思うけど」
「わーお」
「でもまあ、アンタが言う通り…今まで、自分以外の人間をろくに見てなかったと思うよ」
「え、そこまで言ってません」
「言ったよ」
「言ってないよ」
「言った」
「言ってない」
「…着いたよ」
「おおう」
気付けば寮のある棟に辿り着いていて、男子寮と女子寮の分岐点に立っていた。危ない危ない、ついうっかり口論に持ち込むところだった。
でも、リストと言い合うのは別に全然嫌いではない。ムカつくこともあるけど、仲間だし、今はもう結構な友人だとも思ってる。サンズ王国の任務もキメラの相手も大変だったけど、雨ふって地固まる、というやつだろうか。なんか違う?
「じゃあ、また明日」
頭一つ分高いところにある顔を見上げると、リストは少し首をかしげてから、にやりと唇の端を上げた。ふふん、の時と似ている顔である。あまりいい予感はしなくて身構えるが、リストは口を開かなかった。
その代わりに手が伸びてきて、おでこのあたりの髪をかき上げる。なんだなんだと思っていると一瞬で顔が近づいて、おでこに触れて、離れた。
「…ん?」
「また明日」
なんだ今の…
「ほら、早く行きなよ」
「あ、はあ…」
なんかちょっと釈然としない気分で、でも何て言えば良いかよく分からなかったので、仕方なくなんの文句も言わないまま呆れた顔のリストから離れる。いやいや、呆れられる筋合いとかまるで無いと思うんですけど。まあ…申し訳なさそうな顔をしているよりずっとリストらしいから、いいか。




