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The Chamber Actors  作者: snow
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 結論から言えば、評定上がった。わーい。


 脱出ポッドの不具合は完全にこちらの責任だと珍しく真面目くさった顔でノキア先生に謝られたけれど、脱出ポッド付近の監視カメラがおかしくなっているという報告を重く見て即座に見に来てくれて、私とリストを保護してくれたのはノキア先生だ。なので、別に先生に謝られるようなことは何もない。

 強いて謝ってもらうなら、ポッドのメンテナンス業者とか?でもなあ、どんなにきちんとやっているつもりでも、故障はありえるのだろう…いや、それじゃあ困るか。これを機により完全なメンテナンスをしてくれれば私たちも浮かばれる。結局死んでないけど。


 いまのところは、生き延びて、新品の制服を数着支給され、ついでに臨時の給料も支給され、シャワーも浴びて、真新しい制服に身を包んで良い気分である。

 しかもリストが街で夕食をごちそうしてくれるらしい。リストと2人で楽しく夕食とか想像できなさすぎて笑える。ハハッ。でも、何度言ってもリストが私に負い目を感じているようなので、ここはおごられとく方が無難だろう。食堂にも飽きてきたしな。


「ふうー…よし、そろそろ行くか」


 時間を確認し、私は寮の部屋を出た。正門へ続く廊下をこつこつと歩いていく。今は夕食前の最後の授業時間なので、あまり生徒の姿はない。ただうちの学年の授業は入っていないので、ところどころに見知った顔がある。


 中央のホールまで出たところで、右横から聞き覚えのある声がした。別に今日は、悪魔のご挨拶には聞こえない、耳に優しい低音である。


「マリー」

「クロム。なに?」

「君が、怪我をしたと聞いたが」

「ああ、少しだけ…実戦訓練施設で」

「…そうか。無茶はしないほうがいい」

「うん私もそう思う!」

「…」

「本当に思ってるって…脱出ポッドの調子が悪くて、危なかったんだ。だから実戦訓練をそもそも控えようと思ってるよ」

「…それなら良いが」


 心配そうな顔のままだが、クロムは私の右手首を掴んでいた手を放した。懐かれたものである。でもこちらに戻ってからはサンズ国にいたときのように悪ふざけはあまりしてこなくて礼儀正しいので、普通に仲良くなったと言ってもよかった。サンズにいたときはよほど暇を持て余していたのだろう。


「あ、じゃあ私いかなきゃ」

「?どこに行くんだ?」

「ああ、リストが夕食をおごってくれるんだ」

「…リスト?なんでまた…」

「えっと…実戦訓練施設で怪我したって言ったじゃん?その時リストもいて…別にリストのせいじゃないんだけど、まあちょっと彼に不都合があって時間とっちゃってさ」

「なんだと!?あの男…」

「いや、本当にリストが悪いわけじゃ全然ないんだ。でもなんかねえ。殊勝なとこあるんだねリストにも。お前誰だよって私は思った…って、クロム聞いてる?」

「…俺も行こう」

「え?いやー、リストがクロムにおごるかなあ…(なんか直前に怒ってたから無理だと思うけど)」

「いや、同行するだけだ」

「あ、そう?うーん…?」


 そもそもリストが荒んだ戦闘をしてたのは、クロムにやきもちやいてたからでして…サンズの件以降、クロムとリストも相当に打ち解けたとは思うんだけど、一緒に仲良く夕食、というタイミングではないような気もする。うーん…まあでも、戦ってストレス解消したみたいだったし、ていうかその後のキメラのせいでもはやそれどころじゃなかったし、平気かな。


 楽観的に考えながら正門に辿り着く。制服を着たリストが、腕を組んで正門によりかかっていた。こちらに気づくと、怪訝そうに首をかしげる。


「あれ、クロム?」

「うん。そこで会った」

「…俺も同行しよう」

「はあ?なんで?」

「さあ…学食に飽きたの?」

「…まあな」

「いやいや、邪魔しないでくれる?」


 あ、やっぱりタイミング的によろしくなかったらしい。うーん、面倒なことである。

 行くだの行かないだの揉めている2人を放っといて、私は正門の中に目をやった。するとちょうど、誰かと一緒に歩いているフェリスが目に入る。あ、フェリスに仲裁してもらうっていう手も…いやでも余計拗れるかな。そもそも別な人と一緒だし邪魔しちゃ悪いか。私は視線を戻そうとしたが、その前にあちらが気づいて、友人に一声かけてからこっちに駆け寄ってくる。


「クロムに、リストに、マリー…なにしてるの?」

「うーん…夕食に行こうとしている、のかな?」

「あら、夕食?」


 それなら私と行きましょう、とにこやかに行って、フェリスがクロムの手を取る。クロムがそちらに注意を向けた一瞬に、


「わ」


 リストは私を引っ張り込みながら、目の前に止まっていた黒塗りの車に乗り込んだ。運転手に向かい、出して、と言うとすぐに車が発進する。あ、これ君んちの車だったんですか。全然気づいてなかった。

 ドアのガラスの向こうに、驚いた顔のクロムとフェリスが一瞬だけ見えてすぐに遠ざかる。ああ、おいてきてしまった…でもフェリスが来てくれたならまあいっか。


「車で行くの?」

「他に何で行くのさ」

「徒歩かと…っていうかどこいこっか」

「もう決めてる。少し遠いから」

「あ、そう?」


 近くにファミレスとかファーストフードとか、結構あるのでそこに行くかと思っていた。でも行かないか…そういえば忘れかけていたけどこいつぼっちゃんどころかマジ貴族だったわ…うわあー、それっぽい店とかだったらどうしようー。あんまりお金持ってきてない。万が一、僕がアンタにおごるわけないだろ!とか言って置き去りにされたら…ああでも今日、臨時給与があったんだ。あれで払おう。よし。


「何?その…百面相は」

「ああ、色々な場合を想定して」

「場合?」

「リストに置いてかれた場合とか」

「そんなことするわけないだろ」

「ハハッ」


 どうだかね!にやにやする私の目に、リストは首ごとこちらに向けてまっすぐ視線を向けた。


「マリーは僕を置いて行かなかったから、これから、僕も絶対に置いて行かない」

「えっ…うーんと、ありがとう」


 まあそっか。感謝の気持ちでごちそうしてくれるのなら、さすがのリストもそんなことはしないだろう。

 そもそも、リストは傲慢で鼻持ちならない態度をとるけど、意地悪と言うわけではない。偉そうすぎるだけだ。悪気はないんだろう…こいつもこいつでバカなんだな…


「なんか失礼なこと考えてない?」

「いや、全然」

「そう。なら良いんだけど」




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