表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Chamber Actors  作者: snow
18/48

王子様じゃなくても 1



 おでこに何かが当たって心地よく、意識が覚醒した。明るい。あ、やばい寝過ごしたかも。そう思ってぱちりと目を開くと、紫の瞳と目があった。リストは、私のでこあたりの髪を掻き分けていたらしい手を慌ててひっこめて、隣のベッドに腰掛けた。ちょっとぼんやりするな、と思いながら私は上半身を起こす。


「…おはようございます」

「あ、ああ」

「あれ、保健室じゃん」

「僕もさっき起きたところだ。2人とも消耗しすぎていて、倒れたらしい」

「そっか…ええと」

「さっきまでリン先生がいた。今は、起きたことをノキア先生に報告に行ってる。ここで待機しろってさ」

「了解…あー…そうだった。思い出してきた」

「そうか」

「一番大事なことを思い出した。リスト、シャワー浴びた?」

「…着替えさせられてたけど、シャワーはまだ」

「うええー」

「……」

「うわ、黙らないでよ本気で言ったわけじゃないよ」

「分かってる」


 なんだか、やけに大人しい。まあリストも疲れてんだろう。死ぬかと思ったしね!リストの言葉に自分に視線を落とせば、血やほこりや土で汚れきった制服ではなく、すとんとした白いワンピースを身に着けさせられていた。ところどころに負っていた裂傷や打撲もすっかり治っている。

 耐魔術とか耐衝撃とかあるのかなあこの服、と思いながら裾のあたりをめくると、ちゃんと術が施されているようだった。さすがである。でもこの恰好で何かに襲われたら死ぬ自信がある。いや、腕時計があるから一般武装兵とか低級モンスターくらいならなんとか…


「悪かった」

「え?」

「色々と」

「え、ああ…いやだから本当に何も、リストのせいじゃないから。ポッドのせいだから。いや、っていうか実戦訓練中だから、基本的には自己責任か…でもポッドはねえ、あれはひどいよね。さすがにあの時は絶望した」

「そうだな…」

「…えっと、まだ具合悪いの?」

「いや?」

「ふうん、ならいいけど…シャワー浴びたいね」

「まあね」


 言葉少ななリストは、目を閉じてきらきらの金髪をかきあげた。どうやら少しは綺麗にされたらしく、モンスターの体液でどろどろというわけではもうない。でもかぴかぴしてるんだろうな…さほど体液は浴びていない私すらそうなのだ。リストは相当だろう。あーシャワー浴びたいわ。

 そう思いながらベッドに座り、手持無沙汰にぶらぶらと足を揺らしていると、視線を感じたので顔を上げる。リストが黙ってこっちをじっと、まっすぐ見ている。瞳は相変わらず紫で、私とは全然違う、宝石のような色である。格差を感じるわ格差を。


「なに?」

「いや、別に…アンタ、割と強いよね」

「えっ…君はさあ、3年も一緒に訓練を受けてきて、1か月も一緒に実戦任務をこなして、パレードで共闘して、一体何を見てたの?」

「ああそういえば、実戦訓練施設でもよく会ってたか」


 そういえばって…同級生なんですけど。

 リストの言う通り、実戦訓練施設でリストを見かけることは1年のころからよくあった。最近では、話すことも割とある。しかしあんまり覚えていなかったらしい。いやー、あるあるですね。モブ顔の辛いところだ。まあ、そういえばいたなあとか思い出せただけでも上出来か。


「私は真面目なんだよこう見えて」

「そうだな…アンタ、いいやつだよね」

「はあ?何リスト、気持ち悪い…頭でもうった?」

「…うってない」

「ふうん」

「その…マリー」

「ん?」

「……ありがとう、逃げずに一緒に戦ってくれて」


 誰このひと?そう私が思ったのも当然のことだろう。あのリストが…あのリストが!こんなに殊勝にお礼を言う姿など、いまだかつて想像し得ただろうか。いや無理でした。今もちょっと信じられない。ぽかんとしながらも、慌てて私はなんとか返答する。


「いやそれは当然じゃん…こっちこそ、せっかく逃げろって言ってくれたのに、無視してごめん」

「いや、助かった」


 あ、ごめんなんて全然思ってないのに、動揺のあまりつい謝ってしまった。心にもないことを言った私にリストが気付いた様子はなく、目を細めて柔かく微笑んでいる。おお、嘲笑か高笑い以外の笑顔もできるんだなこいつ。普段からそうしてくれ。


「こないだはリストの方が助けてくれたじゃん」

「こないだ?」

「前キメラに追われた時」

「あれは…あれは全然違う」

「ええー?さほど違わないじゃん…まあ逃走か戦闘かの違いはあるけど」

「僕は先に施設外に出た」

「そりゃそうでしょ」

「全然、助けてないだろ。今回とは違う」

「違わないって」

「違う」

「違わない」

「違う!」

「違わない!」

「違うって言ってるだろ!」

「違いませんーーー!」


 すわ決闘か、と思われた途端に、保健室のスライド式自動ドアが軽い音とともに開き、困惑した表情のノキア先生が現れた。その後ろから顔を出したリン先生は、ただでさえきつめの美しい顔をさらに厳しくしてこちらへずかずかと歩み寄ってくる。


「なにやってんだお前ら…」

「コラ!喧嘩しないでちゃんと寝てるネ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ