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すたん、と小気味よい音を立てて飛び去った後ろ姿を見送ってから、俺は隣に顔を向けた。クロムはいつも通りの無表情で、ちらりとこちらに視線をやる。
「クロム、マリーをからかうのはやめろよ」
「…からかっているだけだと思ってるのか?本気で?」
「そりゃそうだろ」
「へえ、なんでだろうな」
「だってそりゃお前…」
モブ顔のコンプレックスを舐めないで欲しい。しかしそれは口に出さず、俺はただ首を振った。
「とにかく、あいつ昨日、すっげえ疲れてたじゃないか」
「…それは反省した。今日も、やりすぎたな」
「はあ」
「もう少し、ソフトな手段を使うべきだった」
「だからー…もう、やめろって」
睨みつけるが、クロムは無表情を崩さない。それどころか、少し笑みを浮かべた。
「…問題あるのか?」
「疲れすぎると任務に支障をきたす…っつーか、そもそも可哀想だろ」
「…それだけ?」
「それだけって…十分じゃねーか。お前、結構意地悪いのな。騎士っぽくて紳士的なのかと思ってたんだけど」
「…基本的には紳士的だ」
「そうか?全然そんなことないけど」
「確かに。しくじったな」
「まあ、とにかくあんまからかってやるなよ」
「…ジョン、お前は、マリーとは何もないのか?」
「あー(よく言われるけどそういうのでは)」
「いや、違うな…お前はどう思ってるんだ?」
「え?どうって…」
モブ仲間だけど。
そう思いながら答えようとしたが、どういえばモブ仲間っていうこの感じが、このイケメン騎士様に伝わるのか。ちょっと分からずに悩んでしまう。何それどんな感じ?モブの気持ちなんてわかんないけど?って思われそうだな。あと、あんま目立たないゆえの仲間意識、とかちょっと言いたくないな。俺にも矜持はある。ほんの少し。
「う、うーん…ほらちょっと、似てるとこあるんだよ」
「…そうか…まあ、言われてみれば。妹みたいなものか」
「いやー…まあそんなとこ」
なるほど、妹みたい…いや、姉みたい?どちらか分からない。あ、双子のきょうだいがいたら、あんな感じかもしれない。




