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パレードの護衛計画は、そう難しいものではなかった。何故なら、私たちは護衛の主力として、パレード車に同乗することを許可されたからだ。同じ車と行っても王太子とは高さが違う部分への同乗だが、すぐ近くで護衛できるならずっと警戒しておく以外にやりようはない。あっさりと説明を終えられ、解放された私はすぐに部屋へと向かった。柔かいベッドに、衣服も替えずにばたりと倒れこむ。
「くっはー…眠い…寝よう」
もちろん、体力的には薬や術でカバーしている。この睡眠欲は精神的なものが大きいのだ。それでも、睡眠をとらないと消耗していくのは確か。
「(ジョンは大丈夫なのかな…あいつ本当に、寝てるのかな…?)」
私もジョンも、地味だがマジメな生徒である。恐らく、任務中に寝ても良いやという発想はそれほどないだろう。いや、分からないか。ジョンは私に比べ、時折発想が自由だ。うん寝てるかもな、そのほうが効率良いとか言って。じゃあいいや私も遠慮なく。そう思って本格的に寝入ろうとした瞬間、部屋のドアがノックされた。
「マリー?」
「えええー…何なのー…」
噂をすれば影である。ジョンのことなんて考えるんじゃなかった。私は渋々ドアを開け、すぐにベッドへともぐりこむ。
「何?眠いんでここで聞きます」
「寝落ちするじゃねーかそれじゃあ」
「しない…ぐう」
「してるー!」
「はいはい…それで、何?」
仕方なく起き上がり、ベッドに腰掛ける。椅子は残念ながら1台しかないのだ。ジョンが座るだろう。でも予想に反し、彼は立ったまま壁に寄りかかって話し始めた。
「さっきの…ことなんだけど」
「さっき…?何か聞き漏らしたの?珍しい」
「いや、護衛計画のことじゃなくて。クロムの話」
「クロム?ああ、うん、やっぱり良いよ替わってくれなくても。今日休めそうだし…って邪魔しないでよ、だから」
「何もしないならってどういうこと?」
「えー」
それを言っちゃうのはなあ。いや私は良いんですけどね、だってジョンは、クロムにハグされたからって私をいじめたりしない。けどイケメンクール騎士様で通してるクロムの面子がな…自業自得なんですけどね。考える私に、ジョンは余計に顔をしかめて詰め寄った。
「どういうことだよ?」
「えー…いや、クロムさんがさあ」
「あとなんでさん付けなの」
「精神的な距離かな」
「はあ?」
「だってあのひとちょっとおかしいよ」
「えっ…いやお前、失礼だろそれは」
「だって…まあ仕方ないか。多分、友達居ないんだろうな」
「はあ?なんでだよ」
「なんか、昨日ちょっと喧嘩したんだけど…本当に些細なことで、しかも一瞬だけね。それで、仲直りしたら満面の笑みでハグしてくんの」
「えっ…」
「ひくよね」
「えっ、うん、ひいたわ」
「ねーもう…どんだけあれなの?さびしがり屋さんなの?って感じだよ。例えばジョンと喧嘩してさ、ジョンが許してくれて、私が満面の笑みでハグしてきたらどう思う?」
「えっ…」
「ひくよねええ!」
「え、どうだろ、分かんない」
「ええ…?ああいや、大喧嘩ならあり得るのかもしんないけど」
「どっちかっつーと、クロムの満面の笑み、っていうのに俺はひいた」
「あーそれもね、あるよねまあ」
「微笑み以上は許されねーよ、キャラ的に」
「だね、キャラ的に」
「ふうん…そっか」
「そうそんだけ…じゃ、寝ても良い?」
「あ、うん。悪いな邪魔して」
「いやいや、良いんだけど」
焦ってるのを見て楽しむ、というクロムの残念な嗜好については隠してあげることが出来たな私ってえらい。優しい。そう思いながら私はジョンを見送り、部屋に鍵をかけ、めざましを掛けて眠りについた。一体何しに来たんだろう、という考えが一瞬だけ脳裏をよぎったが、次の瞬間にはもう寝ていた。




