いざとなれば発砲も辞さない 1
「マリー…なんだか…大丈夫?すごく疲れた顔してるけど」
「大丈夫だよ…ハハッ」
「そう?それなら良いんだけど…」
心配そうに覗き込んでくるフェリスに、私はすべてばらしてしまいたかった。クロム・ランバートはいたいけな女性にハグしまくって焦っているのを見て楽しむ的なご趣味をお持ちで、とっても面倒で気持ち悪いということを。でもそれはさすがに可哀想か…ていうかクロムにハグされるとか、最終的には嫌がらせ的なあれだったとしても反感を買いかね…いやフェリスなら大丈夫か。
「あのねフェリス」
「…おはよう、マリー。フェリス」
「おはようございまーす…」
後ろから聞こえてきた低い声に、私は振り向かずに返答をした。落ち着いて耳触りのいいはずの声が、地獄から這い出てきた悪魔のご挨拶に聞こえる。…ちょっと疲れているのね私!
クロムに続きジョンとリストもすぐに出てきて、私たちは指定されていた部屋へ向かう。
今日は全員で、来週ある王太子のパレードの護衛についての配置などの計画を聞き、それからは自由に過ごしていいことになっている。私は絶対に寝る。ただ、パレードの計画についてはしっかり聞いておかなければならない。どうやらこれが、私たちがここに雇われた最大の目的であり、一番危険な仕事の様なので。そのあとは絶対に寝る。絶対にだ。
「…大丈夫か?」
「大丈夫でーす」
覗き込んでくるクロムに対し、お前のせいだよ!という内心を隠して、私はやさぐれた笑みで答えた。隠しきれてなかったかもしれない。クロムは少し微笑んだ後、ぽんぽんと私の頭を数度軽くたたいて前に進む。
なんだよ…なんでこう、上から目線で慰めるの?あなたのせいなんですよ私の疲労は?分かってるそこんとこ?後に続きながらもじっとりとした視線をクロムに向けていると、いつのまにか隣を歩いていたジョンが能天気に言う。
「お前、ずいぶんクロムと仲良くなったのなー。良かったな」
「ハハッ、マアネ!」
「なんだよ…何?なんかの真似?」
「違うよ…疲れてるんだよ…」
「なんで?」
返答しようとした瞬間、前の黒い頭がちらりとこちらを振り向いた。聞こえていらっしゃる。
「いやー…ほらね、やっぱ夜勤は堪えるよね」
「まじ?悪いな」
「いやいや、ジョンが一番きついでしょ」
「いやー…それが、何も起こんないから結構寝られてる」
「まじか」
「替わろうか?」
「いや平気…あ!うん、やっぱ交代しよう!」
答えた瞬間、ぴたりと立ち止まったクロムがこちらを振り向いて戻ってきて、並んで歩き始めた。
「…いや、大丈夫だろう?」
「えっ…いやあ、そのですね」
「だけどクロム、マリーは体力あんまないからさ」
「…だが、塔の担当になったら、実質寝れないだろう」
「まあそうなんだけど…」
「寝りゃあいいよ」
「…そういうわけにはいかない。そうだろう?」
「はい…あ、でも寝なくても、体力回復する術も薬もいっぱいあるし」
「まあ、気持ちの問題だよなー」
「…なら大丈夫だろう、マリー」
「いやまあそうですね…ええまあ、クロムさんが何もしないなら」
「え?」
「…分かった」
「はあ、じゃあ良いや。やっぱ大丈夫、ありがとうジョン」
「え?ちょっと待って今すごい気になる感じのワードが」
「…着いたぞ」
話しているうちに指定された部屋の前に着き、全員が口を閉ざした。リストが開けた扉にフェリスが入り、その後に、私たち3人も続いた。




