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肝っ玉お嬢様奮闘記  作者: 相神 透
家族と世界とわたし
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1-5

 誕生日の翌日、我が家は朝から大忙しになった。普段は交代に通いで来てもらってるメイドさんが、二人とも朝からそろっている。我が家は、いまは爵位を持つとはいえ、父はもともと平民で、商人の娘である母も普段から家事を行う。だから住込みのメイドさんなどはいない。とはいえ、小さいなりに屋敷といえる家に住んでいるため、定期的な掃除などを手伝ってもらうために、交代で来てもらっている。

 今日に限って二人とも来てもらっているのは、私の祖母のための部屋を用意するためだ。


 ──昨日、精霊のスリヤが去った後、父と母とが全然別の行動をとり始めた。


 母は悩みを声に出していた。


「マーヤちゃんは、治癒の魔法が適正なのね。じゃぁどうしましょ、治癒の魔法って使い手の方がなかなかいなくて、教えてくれる人を探すのも大変だわ。でも折角だし、こんなに早く魔法の適性がわかることなんてないんだから、誰かに教わったほうがいいわ……」


 母は、何やら私の魔法教育を本格的に始めるつもりのようだ。治癒魔法が珍しいということもあるのだろうが、おそらく守護者を喚ぶ魔法が、あんな形で失敗したので、ショックを受けてるのではないだろうか。もしくは私のショックを和らげようとしているのかもしれない。私としてはあの詠でよばれて、無理やりな友情を結ばれるより、スリヤと良い関係を築いたほうが有益だと思うのだが。


 一方父は、何やらつぶやいていた。

「言語は何でもいい、だなんて。そんな馬鹿な……じゃあ、なんのために魔法文字を使ってるんだ。」「……エウレニア語で魔法陣を書いてみるか……」「いやそれだと何の魔法が誰でもわかる……」「……あ、別にかまわないのか……のような用途なら……」


 よっぽどスリヤに聞かされたことが堪えているようだった。魔法文字というのはラテン語のことだと思う。エウレニア語というのは私たちが普段使っている英語もどきの言語のことだ。ちなみに私が住む国の名前はファランク王国というらしいので、エウレニア語というのは他の国も使っている言語なのかもしれない。


「あなた、カイル、そんなことよりマーヤちゃんの先生を探しましょう」


 母が父におだやかに声をかける。

 

「……待てよ、魔法陣を二重にして魔法文字とエウレニア語で複数の意味を持たせれば……」


 父は母の声が耳に入っていないようだ。よくあることだが、大抵この後は、あまりいい状況にはならない。母は抱いていた私を、おもむろにソファーに座らせてから、一度大きく息を吸い込んで、怒鳴る。


「あなたっ!カイルッ!」「誰もが使うような……」


 ああ、母のまなじりが上がっていくのが見える。なんでこの声が無視できるのだろう。


「……あなた」


 こんどは一転、つぶやき程度の、平坦で乾いた声で呼ぶ。


「おおお、なんだサーヤ。あああ、マーヤの先生役なら母に頼めばいいだろう」


 大きな声で怒鳴っていても聞いてくれないのに、小さく、平坦な声で囁くと驚くほど素早く的確な回答が返ってくる。……前世の私も同じような経験が何度もある。どこの世界でも、夫というのは何故こうも度し難いのだろうか。


「お義母様は辺境に住んでらっしゃって出てこないじゃないの。まさか、マーヤを辺境にやるなんて言わないわよね。」


 母の声が平板なままだ。前世の娘と同じ世代なのだが、今の私にとってはやはり母なのである。怒れる母は心臓に悪い。思わず母に加勢する。


「おとうたま、とおくへいくのはやでしゅ」


 女は 団結するものなのだ。


「ほらごらんなさい!あなたもまじめに考えてください」


 母の声がちょっと明るくなった。娘が加勢する母親というのは非常に強気になる。これもまた度し難いかもしれない。


「いや、母に来てもらうようにするから、大丈夫だよ。明日にでも用意しよう」


 その時は父が母の怒りをそらすための逃げの手を打ったのだと思った。母も疑わしそうに父を見ていたが、怒鳴って気が晴れたのか、それとも私が味方に付いたことで溜飲が下がったのか、それ以上の追及はなくなった。


 父は辺境の祖父母の家に遠話で何やら話した後、すぐに祖母の部屋の準備のための手配をした。二人のメイドさんをお願いするだけだが。それが終わると、ほっとしたようにいそいそと書斎に籠りに行った。エウレニア語の魔法陣を試していたのだろう。


 そして、あけて今日、私に魔法を教えるために、我が家に来る祖母を迎える部屋の準備に家中が大わらわなのである。祖母の部屋は、二階の北側の部屋になった。


「お年寄りに二階の北側って、ご主人は何をお考えなのかしら」


 部屋のなかのさまざまなものを取り除いている間、私の面倒を見てくれることになったメイドのミラさんが不思議そうにつぶやいている。私に聞かせようとしたのではなく、ただ口に出さずには居れなかっただけなんだろうと思う。私も同じことを思っていた。その部屋は、普段使われない部屋で、物置代わりになっていたのだから、丁度良いと言えば良いのだが、日当たりを考えに入れないでいいのだろうか。祖母はまだ五十歳で足腰もしっかりしているのだが、だからと言って二階に部屋を作るのは非常識じゃないのだろうか。それとも魔法で何とかするのだろうか。などといろいろと疑問に思っていたのだ。


 とはいえ、父はともかく、そういうことに気が利くほうの母も納得して作業しているようなので、口は出さずにいた。


 やがて、物置状態だった部屋が、気持のよいリビングのようになり、ひと組のソファーが運び込まれて、作業を終えた。昼食は、労働をねぎらうように、メイドさんの二人も一緒に食卓に付いた。貴族の食卓で使用人が同じテーブルを囲むことはないらしく、二人とも恐縮していたのだが、父や母がそんなことに頓着するはずもなく、母の手作りの料理を並べて一緒に昼食となった。


 昼食後、手伝ってもらった二人にお礼を言って帰ってもらうと、父が私を抱き上げて二階へ上っていく。祖母の部屋に行くのだろうが、何の用事だろうか、と疑問に感じていると。


「じゃあお母さんをここに呼びましょうか。」


 父が宣言し、祖母の部屋に魔法陣を広げ始めた。


 ……今から、ですか?








短めです。

中途半端なところで区切って申し訳ないです

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