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肝っ玉お嬢様奮闘記  作者: 相神 透
家族と世界とわたし
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1-3

「おかあさま、おとうさまの用意ちているものって、どんなのでしゅか」


 父がリビングから出て行った後、私は好奇心が抑えられなくなった。私を抱きかかえたままの母に、プレゼントの内容を尋ねてしまう。大人がやればマナー違反で眉をひそめられる行為だ。


 最近、感情だけではなく、思考や行動も少しずつ子供じみてきている気がする。退化なのか、順応なのか、気になるところだ。


「マーヤちゃん駄目よ、そんなの先に聞いたら楽しみが減っちゃうわ。お父さんもお母さんも、あなたのびっくりする顔が見たいんだから」


 にこにこ笑いながら、優しい声でダメ出しされた。やっぱりマナー違反なのだが、二歳の子供のちょっとしたマナー違反を深刻に叱る親はあまりいない。とはいえ、自省していたこともあり、反射的に謝罪の言葉が出て来る。


「ごめんなしゃい…」


 少し沈んだ声になった。それを聞いた母は、またもにこにこと笑って頬ずりをしてくれる。まあなんて可愛いんでしょう、なんてつぶやいている。


そんな風に母娘のコミュニケーションを深めていると、父が帰ってきた。大事そうに両手で持っているのは、木製の箱のようなもの。大きさは高校生のお弁当箱くらい、こちらの世界なら文箱と同じくらいのようだ。


 父はリビングのテーブルの上を片付けて、箱と一緒に持ってきたらしい大きな紙を広げていきながら、説明してくれた。


「マーヤへのプレゼントは魔法の守護者だよ。まずはマーヤの魔法の適正を観ようね」


 そう言えばこの世界には魔法が存在するんだった。日頃から片鱗は目にしているが、普段の生活にすっかり馴染んでいて忘れそうになる。灯りや水洗トイレは、魔法であっても利便性は変わらない。


「しゅごしぁ?てきせえ?」


「マーヤの得意な魔法を調べるんだ。そしてその魔法を助けてくれる精霊を、守護者として精霊の世界から喚ぶんだよ」


「あたくちのまほう?」


 宮廷魔術師なんてものをやってる父をもつのだから、魔法を使えても不思議はないのかも知れないが、自分で魔法を使うことは考えもしなかった。


「お父さんも使えるし、お母さんもお花とか咲かせるの、上手なのよ。お母さんの守護者はこの子たち。」


 母がそう言うと、そのまわりにたくさんのひらひらしたものが、とび回り始めた。色とりどりで何だか幻想的である。魔法で喚ばれた精霊だから幻想的で当たり前なのだが。

 それにしても、いままで母の守護者に気づかないはずだ。どうみても蝶なのだ。母の周りを飛んでいるのを見ていたとしても、それが魔法だとか思わなかっただろう。


「お母さんは植物を育てる魔法が得意なんだよ。お母さんの守護者は受粉を助けてくれるんだ」


 父が、補足するように言うが、2歳児への説明としては不適切ではないだろうか。


 それはともかく、気になるのは父の魔力だ。期待を込めてじっとみる。

 すると父は言いづらそうに口を開く。


「あー、お父さんの魔法は家の中とか町の中で使うのには、ちょっと向いてないんだ」


 剣呑なことを言う。宮廷魔術師というくらいだから、なにか凄いことが出来るのかもしれない。とはいえ、今はそれは後で良い。もっとも身近にいる母が操った魔法 ──実際は自分の守護精霊を呼んだだけなのだが── にすっかり心を奪われていて、自分がどんな魔法を持ってるのか、というのにわくわくしている。


「おとうたま、あたくちのまほーは?」


「あ、そうだな。」


 父は、自分の守護者を見せろとせがまれ無かったのに、ほっとしたようだった。


「守護者を喚ぶのは、魔法の適正を調べる効率良いやり方なんだ、マーヤのおじいちゃんと僕とで発見したんだよ。この魔法陣は王宮の書庫で見つけた、人のことが好きな精霊を喚ぶ魔法陣で、喚んだ精霊は、この精霊石の力で、マーヤの近くにいられるようにするんだ」


 どうやら、我が一族のオリジナルの魔法のようだ。父は説明しながら先ほど広げた紙の真ん中に箱から取り出した、青白く透き通った石のようなものをおいた。これが精霊石なのだろう。


「おじいさんが、辺境の森で見つけたんだよ。本当はマーヤにはまだ早いと思うんだけど、折角大きくて質のいい精霊石が手に入ったからって誕生日プレゼントに送ってくれたんだよ」

「マーヤちゃん、今日だめでも気にしちゃ駄目よ?何回でも試せるんですからね。」


 始めるまえから父母が牽制しているが、二歳の誕生日の娘は、その気遣いを普通は理解できないのではないだろうか。そもそも精霊石と守護者の下りのところで、普通の二歳児どころか私自身がついて行けなくなってきている。


 ──「魔法陣って何?」って聞いたほうが良いかな?


 との思いも頭をかすめたのだが、混乱しているうえに魔法陣に気を取られてしまい、なんとなく聞きそびれる。気を取り直してともかく、目の前に広がった模様を眺めて見る。大きな白い紙に書かれたそれは、大きな丸で囲まれた中にいろいろな文字や記号が図形が書き込まれている。神秘的だと言えなくもないが、なんとなく胡散臭く見える。もちろん私は、この世界で魔法陣を見たのは初めてなので、単なる感想に過ぎないのだが。


 ──あれ、ラテン語?


 魔法陣に記載された文字の並びの中に、馴染みのあったものを見つけてしまった。ラテン語は私が前世の最期の半年、退屈をまぎらわすためと、なにかなんの役にも立たないことをしてやろうという、変な意地だけで勉強をしたものだ。それが、目の前の魔法陣にかかれていて、反射的に内容を読んでしまう。


「……ラブレター?」


 書かれている内容におどろいて、思わず呟く。そして父や母に届いていないことを咄嗟に願う。


「マーヤ、何で判るんだい、もうだれも読めない古代文明の言葉なのに…」


「え、なんとなくしょんなかんじ…」


 私の呟きが聞こえてしまっていたらしい、父の追及に上手くかわせなくて焦ってどもる。


「なんとなく、か。凄いな。精霊との交感しやすい素質なのかもしれないね。これは、精霊に愛を訴えかけて、受け入れてくれる精霊を喚ぶものだよ」


 ──私が読む限り、もっと永続的な、最後通告のようなプロポーズなんですが。これで喚ばれて来ちゃう精霊って、なんかやだな。


「じゃあ始めるよ、精霊と一緒にいたいって願うんだ。」


 ──もう始めるの、心の準備がまだなんですが!?


 魔法陣に並ぶ愛の言葉が気恥ずかしい。魔法陣に書かれたような愛情を精霊とはいえ初対面の相手にぶつけるなんてことは出来ない。私は同じ位に強い思い、生涯の友誼を念じた。


 ──変なのが来ませんように。


 しばらくすると、部屋のなかになにやら濃密な気配が満ちる。息苦しく感じるほど強く感じたその気配はしかし、束の間で消え去ってしまった。打って変わって静寂が包む部屋の真ん中に、魔法陣と精霊石だけが残されている。


 うろたえた父がその静寂を破る。


「失敗?でも、マーヤには治癒の力をはっきり感じたぞ、それにあの、濃い気配……」


 どうやら、魔法の種類は判ったが、守護者は喚べなかった、というところか。にしても前世で看護師だった私の魔法が、治癒だというのは運命の皮肉か、なにかの差配なのか。


 突然、精霊石が輝きだした。部屋が白くなる程の明るさなのに、不思議に目に優しい光だ。


 その光が消えた後に、精霊石の隣には小さな人影が立っていた。


「妖精…?」


 まるで、地球の御伽噺に出て来るような妖精だった。掌に乗りそうな小さな体に、体と同じくらいの大きさの羽根、カゲロウの物とそっくりだ。魅惑的な容姿と美しい羽根はまるで絵本から抜け出したような、そんな懐かしさを感じた。……一点を除いて。


 その妖精は地球での看護師が着るような白衣、いわゆるナース服を着ていたのだ。


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