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肝っ玉お嬢様奮闘記  作者: 相神 透
戻ってきた日常
35/40

4-7

 王宮の西の端に位置するパーティ用のホールにつながる、王家専用(・・・・)の廊下はホールの入口の大きな扉に突き当たっている。色とりどりの鮮やかな意匠を凝らしたその扉を通して、ホールのなかのざわめきが聞こえてくる。会場はすでに多くの出席者であふれ、あちらこちらで挨拶などが行われているのだろう。エルファシア王女による初めての主催パーティに招待された、出席者たちの興奮や喜びが伝わってくるように感じられる。


 その扉の前では、主催者たる王女を含めた王家の方々が、会場へ入る時が来るのを待っている。高齢の王は待つ間も椅子に座って休み、傍らには王妃かが寄り添って立つ。通常のパーティーであれば国王陛下と王妃殿下は最後に入場するのだが、今回は特別に主催者となった王女が最後に入場することになっている。友人としてエリスと、私を引き連れて。


 そう、なぜか母と私は王家のみなさまと一緒に入場するのだ。


 ──王家の方々と一緒に入場、それも最後って……


 どんな経緯なのかすらも良くわからないうちに、私は王女の友人としてパーティに出席することになっているのだ。そして母は王太子妃の友人として参加する。


 王太子妃殿下とジョアンさんは母が来ているのと同じ色のドレスに着替えている。わざわざ色を合わせて一緒に入場をしたのは王太子妃の新しい友人のお披露目の意図でもあるのかもしれない。大商とはいえ平民出身の母に予想される、宮廷の方々の風当たりが、これで少しは和らぐのならいいのだけど。


 新参の下級貴族の妻や娘がいきなり王太子妃や王女の付添役だなどと広く知られれば面倒な反発もありそうな気がするのだけれども……子供が心配することでもないかもしれない。父がよろしくやるだろう。何も知らされずに巻き込まれた今の状況では流れに身を任せながら目と耳を澄ませておくことが重要だろう。


 この状況をどう受け取ってるのかと思い母の方を見ると、王太子妃殿下の話相手をしながらも、緊張している事を隠せないでいるようだ。ちらりとこちらを見たので目が合うと、なんだか私に対して申し訳なさげな表情がみえた。


 ──お母様、何か知っているのね。


 あの表情は、事情を知っていて私を巻き込んだことを憂慮しているように見えた。絶対に後で聞き出そうと心に決めると、少し気が楽になる。父や母が事情を知っているならそう酷いことにはならないはずだからと、頭を切りかえて、さっきからおしゃべりを続けている、シア様とエリスに意識を戻した。


 エルファシア王女――シア様の部屋でのおしゃべりの間に仲良くなった私たちは、お互いを名前で呼び合うことにした。ただ私やエリスは良いとしても、王女殿下を呼び捨てにするわけにはいかないので、愛称でシア様と呼ぶことにしたのだが、その時は王女に拗ねられてしまいそうになった。


 「私だけ仲間外れみたいでイヤだわ」


 本当に寂しそうな顔をして、声もしょんぼりと力がなくなるので、危うく絆されそうになったのだが、そういう訳にもいかない。たとえ本人がそれでいいといっても、階級社会において下位の貴族が王家の人間を友人のように呼ぶことは許されないだろう。シア様が仲間意識を持ててうれしいという


 「どんな呼び方をしてもシア様のことを仲間外れにしたりしないわ」


 エリスが力強く宣言してくれたので、私も大きく頷いて肯定の意思を示し、言葉を重ねる。


 「私たちが殿下と一緒にいるためには、大人に文句を言わせない様にしないといけませんから、ケジメは大事です。それに、呼び方がどうであれ私たちは殿下の友達ですよ」


 正直に告白すれば、この時の私は王女殿下が納得しそうなその場しのぎを口にしたのかもしれない。勿論ただのその場しのぎというよりは、こんな小さな女の子でしかも王女であるシア様に対しての奇妙とも言える友情も有ったのは確かだ。


 だから、その後の王女の申し出は断れなかった。


 「じゃあ、二人ともずっと一緒だよ」


 愛らしい笑顔にほだされて、二人とも大きく頷いた。その事自体は後悔するものではないが……


 その後、パーティー入場の際の王女への同行を王女の部屋付きの侍女から言い渡されたのだ。


 ──でも、あれだけが理由ってことは無さそうね。


 王家と友誼を結びたくて、且つ王女と同じ年頃の娘を持つ貴族は沢山いるだろう。王家とすれば信用できる相手でなければ側には置けない。


 ──お父様かお母様が、特段の信用を勝ち得てるってこと?


 色々と気にはなるのだが、考えても答えは出なさそうだ。母に確認すれば分かるだろう。


 そんなことを考えていると、隣に立つエリスが私の手を握ってきた。


 「マーヤ、緊張してるの?」


 シア様とのおしゃべりに興じていた彼女は、考え込んで黙ってしまった私の顔をを心配そうに、覗きこんだ。


 そのエリスにそう聞かれて自問する。どうだろう、緊張しているのだろうか。


 ──緊張は、してない、かな。


 突然の状況変化に戸惑っているけれども緊張はしていない。むしろ、聞いてきたエリスの方が緊張しているように見えるから、首を振って笑いかける。


 「ううん、大丈夫よ。エリスはどうなの?」


 「うーん、ドキドキしてきた」


 エリスの可愛い笑顔の応えにつられて、私の口許か綻ぶ。


 「笑って歩いていれば、だれも私たちのことなんか気にしないわ。これはシア様のパーティで私たちは横にいるだけなんだもの。注目されるのはシア様だけよ」


 大きなパーティで主役の横にいる。そんなシチュエーションは前世でも何度かあったような気がする。医師である夫と結婚してからは主役の夫に付き添うことも有ったし、勤めていた病院の院長の付添で出席することも有ったが、緊張したのは最初だけだったような記憶がある。


 まだ幼く、パーティへの出席経験がそんなにないはずのエリスは、却ってプレッシャーを感じてはいないようだ。シア様とおしゃべりを続けていたのも、功を奏してるのかもしれない。


 「それ、なんだか酷い言い方」


 シア様──エルファシア王女が私たちを振り返って言う。確かに聞きようによっては王女を盾にして、安全なところに隠れているようにもとれる。だが、内容に反してシア様の表情や口調は柔らかい。彼女はこれが社交デビューのはずなのだが、王女の貫録なのか全然緊張していないように見える。


 「シア様は全然緊張してないんですね」


 思ったことが自然と口に出る。随分と気安く話せるようになってしまった。


 「だって、みんないい人ばかりよ」

 

 「みんな?」


 あっけらかんと言う王女に思わず聞き返してしまう。


 「うん、みんな昨日のうちに挨拶に来られたもの」


 どうやら、シア様の言う「みんな」には公爵や侯爵のような王家に近しい貴族しか含まれていなさそうだ。


 ──ま、いいか。


 改めて目の前の女の子が王女だということを思い出させられるが、気にしないことにする。私が今ここにいるのは王女の付添訳が必要だったから、と言うだけのようで特段の役割を期待されてもいない様だ。


 結局そのあとは三人でおしゃべりをして時間を潰した。笑い声が大きくなりすぎて何度か王家のサポートをしている役人の人に叱られたりしているうちに、やがて会場への扉が開き、その前で待っていた集団が動き出した。


 まずは、国王陛下夫妻が歩き出し、それに続くのが王太子夫妻と王太子妃の友人二人。そして王太子の長女エルファシア王女とその友人二人。そのあとに王家の方々が続く。王太子妃の友人はジョアンさんと私の母で、王女の友人はエリスと私。


 「ファランク王国国王、ローランディ13世陛下並びに王妃殿下!」


 入場に合わせて扉の近くの衛兵が会場に響けとばかりに大声で名前を読み上げる。おそらくその声は、魔術をつかって隅々にまでいきわたるのだろう。


 齢六十を超えた国王陛下は病を患っているという噂に反して矍鑠(かくしゃく)としていて、まだこれからも長く現役であると印象付けている。王の登場を待っていたかの様に鳴り響き始めた、華やかな音楽の中で扉をくぐり、ゆっくりとあたりを見渡すようにしながらしっかりとした足取りで歩いていく。


 「ファランク王国王太子にしてローランディ公、シャルル殿下並びに王太子妃殿下!」


 衛兵の声を聴いてホッとする。妃殿下と一緒に入場している母の名前が呼ばれていないのだから、私の名も呼ばれないのだろう。


 ──それにしても、妙なことになっちゃったなあ。今日は母か父の横にいておいしいもの食べてればいいのだと思っていたのに。


 今更のように独白する。


 私も貴族の娘になってしまったので、そのうち舞踏会デビューのようなイベントはこなさないといけないとは思っていたが、そうはいっても新参の男爵の娘に派手なデビューの機会は与えられまいと嵩をくくっていた。なのにいきなり王女と一緒に衆目の中で登場などと、展開が急すぎて実のところ頭がまだついて行ってない。


 そして王太子の子供たち──エランド様とストイコ様、そしてエルファシア様が入場し、三人並んだ後ろに私とエリスが続く。


 ──広い。


 最初の感想はそれだった。私の体がまだ小さいことを差し引いても、その会場は広かった。王家の入り口は、その広い長方形の会場の長辺の中央部から突き出たバルコニーにつながっていて、そこからは会場全体が見渡せる。逆にバルコニーにいる限り会場全体にいる、見たところ四、五百人の客から視線を浴びる位置だ。


 緊張しそうになる自分を押さえて横にいるエリスを見るとさっきまでの笑顔が消えている。傍によって手をつなぎ、微笑みかける。


 「大丈夫よ」


 エリスはコクリと頷いた。こんな状況では、近くにいる母親のところに駆け寄って、その陰に隠れたりしてもおかしくない年頃なのだ。


 そんな中、シア様は笑顔を浮かべたまま私たちから離れてバルコニーの端に近づき周囲を見渡す。四、五〇〇人の客が余裕をもって行き来できる広い会場でその小さな体は一身に注目を浴びて、声を発した。


 「今日は私の初めての主催のパーティに来てくださってありがとうございます。皆さん、楽しんで言ってくださいね」


 魔術で増幅された声が会場に響き渡り、その夜のパーティーが始まった。


非常に難産でした。

なのに全然話が進んでいません。


次はこんなにお待たせせずに、話ももっと進めるよう頑張ります

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