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肝っ玉お嬢様奮闘記  作者: 相神 透
治癒と魔法と
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2-2

 ──えーと。まずは息を整えて、自分の体の中のプラナを意識する。うん、これはできる。


 プラナとは、治癒魔法を行うときに利用する、どんな生物の体内にもあり、普通は目に見えないもの、なのだそうだ。私は霊気のようなものと考えて自分を納得させている。呼び方が馴染みのあるものになっただけで、わけがわからないことは同じなのだけれども。プラナは、生きているものすべての体内に存在していて、植物の中にも存在する。前世の私に言ったら、鼻を鳴らして無視されただろうが、実際存在するのだから仕方がない。少なくとも自分の体内のプラナは感じることができるし、操れるのだ。


 そもそも転生なんてしてること自体、前世でならおとぎ話と決めつけていたろうし、実際この世界に生まれてしばらくは、まだ前世を生きていて夢を見ているのだと思っていた。今となっては前世が夢だったのだと言われても否定できない程、この生にリアリティを感じている。


 考えていてもいつも同じような思考をなぞるだけなので、今の生での現実に意識を戻して、近くに鉢植えしている薬草に目を凝らす。


 ──やっぱり視えない、か。


 治癒魔法を使うには、まずは自分のプラナを意識して感じること。そして、患者のプラナを視ること。視えたプラナから患者の状態を把握して、その上で自分のプラナを通じて患者のプラナを操作することで治癒していくのだ。


 私は患者のプラナを視る段階で躓いてしまっている。どう目を凝らそうとも、自分の体内にあるプラナ以外は視えないのだ。これにはライラも困惑していた。普通は自分のプラナを意識できる場合は視ることに問題は出ることはないそうだ。だから、解決法がない。そのため私は、プラナを感じられない人と同様に次のステップ、患者のプラナを操作する方法を学ぶことができない。私が意識してるプラナは錯覚なのかと思ったこともあったが、私がプラナをきちんと意識し、しかも自分なりに整えていることは、ライラが視て確認してくれている。


 ──しょうがない。いつも通り、自分の点検しましょうか。……内臓良し、血液良し、手足も問題な……あ、ふくらはぎに切り傷発見。……えーと、プラナを巡らせて……


 今、他人のプラナを視られないのは仕方がないが、何かの拍子で視られるようになるかもしれない。その時のために、自分の体のメンテナンスをすることでプラナの使い方を練習するのが日課になっている。プラナを体内で循環させれば怪我がないか、病気になっていないか、などがわかる。そしてプラナから力をもらって体の持つ自然治癒の力に加えてやることで治癒を早める。


 ……林の下草で切ったのだと思われる、ふくらはぎの浅い切り傷は、見る間に塞がった。


 ──自分の体だと、こんなにうまくいくのにね。


 しかし、自分のけがや病気しか治せないのは医者や治癒者とは言えない。


 ライラが魔法を教えてはじめてくれたときに初めて、自分にはプラナが視えないということと、その意味を知った。その時はさすがに落ち込んだものだ。それも仕方がないことだと思う。治癒魔法を使ってこの世界でも人の命を救う仕事をするという、私が2歳にして立てた目標への道程は、その入り口で躓いている形なのだ。


 そのあと、父の書庫の本やライラの蔵書を読み漁り、何か解決方法がないか、懸命に探した。そういえば、その際ライラには、字が読めることがばれてしまったのだが、反応が普通じゃなかった。


 「あらマーヤ、字が読めるの?すごいわねぇ。じゃぁ私の本も持ってきてあげるわ。」


 この時、私は3歳で、私が2歳のころから礼儀作法や一般教養を含めて教育のすべてを担っていたのはライラである。文字を学んだのがいつなのか、疑問に思ってもよさそうなものなのだが、私は字が読めるという事実だけを把握すれば十分という雰囲気だった。両親にも確認した様子はなく、父も母も私に字を教えたのはライラだと思っているようだ。


 ──なーんかあるわよねぇ。ま、いずれ話してくれるでしょう。


 もしくは、いずれ私から話すことになるかもしれない。


 そんなことを考えていると、治癒室の方からライラがやってきた。午前中、けが人が来ていたようだ。


 「マーヤ、お昼にしましょう。今日は”陽だまりの猫”にいかない?」


 「あれ、外に食べに行くの?珍しい」


 「今日はあんまり人がいないのよね、何かあるのかなと思って。酒場だったらいろいろ知ってる人多そうだから、ちょっと話を聞いてこようかと思って」


 患者が少ないというのは、治療院の経営を考えなければ、そんなに悪い話ではない。でも今日に限ってというのは確かに気になる。


 『なんか、余所の国のお偉いさんが来るらしいよ』


 いきなり念話で話し掛けてくる者は決まっている。


 『スリヤ、いたんだ。姿を見せずにいきなり話し掛けないでって言ってるじゃない。余所って?』


 『あたしは、人間の国の名前って覚えんの苦手でさ、よく解らんよ。なんだか南からくるみたいだよ』


 言いつつ、スリヤが姿を顕す。最初に会った時と同様にナース服妖精だ。これ以外の形態にもなれると本人は言うが、たまに服の色が変わる程度で他の姿を見たことがない。


 「あら、スリヤ。お久しぶりね、今日も可愛らしい格好だねぇ」


 いきなり現れた精霊に驚いたライラが、目を丸くしながら挨拶する。ライラにしてみればいきなり小妖精が目の前に出現したのだから、驚くのも無理はない。


 「北の森の賢者どのにはご機嫌潤わしゅう存じます。森の者共も喜んでいることでしょう」


 スリヤが、いきなり変なことを言い出した。北の森の賢者?


 「おやまぁ、王都にいてその名で呼ばれるとは思ってもいなかったわ。伝言を伝えたのはどなたかしら?あ、そうだ。あなたまであの子たちの口調を真似る必要はないのよ」


 「ありがと。伝言もらったのは、北の森のブナの大木の精だよ。今朝散歩してたら呼び寄せられちゃた。ライラってあの木を助けたことあるんだって?」


 「たまたまよ。私の治癒は樹でも癒せるし、近くにいたからね。そんな話はともかく、お昼にしましょうよ。おなかすいたわ。」


 ライラにそんな二つ名があったとは、全然知らなかったな、今度きちんと話をしてもらおう、などと思いつつも、私自身お腹が空いていたこともあって、足早に”陽だまりの猫”に向かった。




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