はじまりの話
人気のない小道を歩いていて、それは唐突に起こった。
僕の身体が、特に腕が猛烈な重力をもって僕に負荷をかけたのだ。
「ぐぁっ!!重っ」
勘違いしている奴に言っておくが断じてこれは僕の足元にブラックホールが出来たわけではない。というか、一瞬の出来事で僕にも理解出来ない。何かが僕の腕の中に落ちてきたという事実を理解したのは、僕が下に目線を落としてからだった。
少し不機嫌そうに瞳を歪めた少女が僕の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「………は?」
「失礼ですね。みてのとーりのか弱い女の子なんですよ?重いとか失礼じゃあありませんか。」
状況の理解出来ない僕は不機嫌さを隠そうともしないその少女に圧倒されたまま固まっている。生ぬるい汗が一筋、僕の頬を撫でた。
(おんなのこがそらからふってきただぁぁぁぁぁぁ!!??)
イヤ、有り得ない。有り得ない。だって有り得ないだろう、どこのラピ○タだ。僕は生憎そこまで夢を見続ける程の子供じゃあない。けれど、実際この女の子は空から降ってきたわけで――
「お生憎様ですが私は空から降ってきたファンタジー少女じゃありませんよ。そこの建物から飛び降りてきました。」
女の子の白い指が、小道脇に経つ白い建物を指差し、彼女はその指をくちびるに押し当てた。
「内緒ですからね?」
「…建物から飛び降りてきたってだけでも僕には驚きなんだけど、君建物を出る時はちゃんとドアってとこからでないといけないの知ってる?」
「何言ってるんですか、そんなの当たり前です。第一入る時はちゃんとドアから堂々と入りました。…あ、降ろして下さい。」
何も誇るところではないだろうに彼女は何故か自慢げに話す。全く理解出来ないまま、僕は彼女に言われるがまま彼女を降ろした。
そして彼女は先程飛び降りたらしい建物の方を向いた。その時僕はその建物が病院であることに気付く。(え、コレやばいんじゃ…)
隣の彼女を見ると彼女は何でもなさそうな顔をして、上を見上げた。両手をメガホンのようにして病棟の何処かに向かって、その凛とした声を張り上げる。
「だいじょーぶですよーーーーーーー!どうぞきてくださーい!」
「…は?」
彼女の奇行にはて、と首を傾げる。そんな僕の様子に気付いたのか彼女は黒いワンピースをひらりと翻してこちらを見上げた。
「もうひとり、落ちてきます。受け止めてあげて下さい。」
「………は?」
上の方で、からりと窓をあけるような音がして、僕は視線をそちらに移す。
結構高い所にある病室の窓を人影が乗り上げようとしているのが見えた。そこで、目の前の彼女が言わんとしていたことを理解した。
「は?え?…マジで?」
「マジで。」
何故か親指を真顔で突き立てられる。
(てかなんで僕がこんな脱獄紛いの奇行手伝わなきゃ―)
「あ、落ちてきますよ。」
彼女が呑気に指を指す。文字通り再び、人が僕の上から降ってきた。
「うわぁ!」
再び、重力が僕を襲った。