第7話
校長の後押しを得たとはいえ、黒田のあの怯えようは本物だった。
彼の目を掻い潜るため、俺は週末まで「人類の発見」を我慢することにした。
焦りがない訳ではない。
だが、俺には一つの秘策があった。
――数日前。
(……なんだ、これ?)
何か役立つスキルがないかとウィンドウを漁っていると、『神石の生成』という項目を偶然発見した。
神石――それは、創造主の精神力を貯蔵できる、伝説級のアーティファクト。
ネットの掲示板では都市伝説として語られるレベルの存在で、「あまりに貴重すぎるため、所持がバレれば国家レベルの研究機関に人体実験されかねない。だから持ち主は皆、その存在を隠している」とまで言われていた。
(精神力を体力に当てはめると、石に貯めるなんて想像もつかないな…)
俺自身、その存在を半信半疑でいた。
だが、ウィンドウに表示された『精神力を注ぎ込むことで神石はエネルギーを貯蔵します。そのエネルギーを後から異世界の創造に利用することができます』という無機質な説明文を信じ、生成してみたのだ。
.
そして週末の土曜日。
俺は寮を出て、蓮華姉さんと公園で待ち合わせをしていた。
「や、やぁ。久しぶりだな、アキラ」
あの日以来の再会だ。
ベンチに座っていた彼女はどこかぎこちなく、オークを目の前にした女騎士のような喋り方で俺を迎えた。一瞬戸惑ったが、俺は蓮華姉さんのために片膝を着く。
「お久しぶりです。蓮華姉さん」
女騎士と、その従士。
コネクトの世界では想像力と、そして“なりきる”ための妄想力がモノを言う。キャラクター性を追求することは、決して恥ずかしいことではない。
俺の演技に、蓮華姉さんの纏う空気が少しだけ和らいだ。
「……心臓は、大丈夫か?」
彼女はベンチから立ち上がると、俺の隣にしゃがみ込んだ。
その手で優しく俺の頭を撫でる。口調こそ変わったものの、柔らかな物言いは、いつも俺の面倒を見てくれた蓮華姉さんそのものだ。込み上げてくるものを抑えるので、精一杯だった。
「流石は兄さんの心臓。パワーで溢れています。体が負けそうなので、毎日走り込みをしています」
「そうか。カイトさんは、体力おばけだったからな」
俺達にしか分からない感情と、思い出。
しばらく感傷に耽っていたが、やがて蓮華姉さんがコホンと一つ咳ばらいをした。
「それで、相談というのは?」
彼女に促されるまま、俺は入学してから今日までに起きた出来事を一つ一つ説明した。
「……やはり、あの馬鹿者に目をつけられていたか。私の可愛いアキラになんてことを…」
食堂での一件を話すと、蓮華姉さんは眉を逆立て、ブツブツと物騒な独り言を呟き始めた。
「はい。それで、黒田先生という担任に相談に行ったんですが……」
続けて黒田の研究室前で聞いた不審な電話の内容と、古代龍を発見した話を聞いた後の彼の異常な怯えようを話した。
「神話型か。狙って創れるような世界ではない。我が弟は幸運だな。だが、教師が生徒を脅すような真似をするとはな」
蓮華姉さんは自分のことのように憤慨してくれた。
俺は校長先生と出会い、「好きにやれ」と後押しされたことも伝えた。
「校長先生自らが……。ふむ。黒田の後ろにはどこかの企業が暗躍していて、校長は君の後ろ盾となった。面白い構図になってきたな」
全てを話し終えた時、彼女の目つきは本物の侍のように、殺気染みたモノへと変わっていた。
「――とりあえず、黒田を斬るか」
帯刀していた木刀の柄を、彼女はぐっと強く握りしめた。
あまりにも物騒な発言に、俺は慌てて「とりあえず黒田先生のことは放っておきましょう」と提案する。
「伊集院も、今は放置していて大丈夫だろう」
「え、そうなんですか?」
「ああ。あいつは私と同学年だからな。女子の情報網を舐めるなよ」
蓮華姉さんはニヤリと口の端を吊り上げた。
「あいつは好みの女子生徒が現れると片っ端から声をかけ、コネクトの枠をほとんど使い切っている。東雲さんに声をかけたのも、他の男子への牽制と自分のコレクション自慢がしたかっただけのはずだ」
蓮華姉さんの言葉を裏付けるように、あの日以来、伊集院が俺たちの前に現れることはなかった。
美沙も最初は彼の影に怯えていたが、三日も経てばその存在を忘れていたようだ。
「そして神石か……。都市伝説だと思っていたが、まさか本当に実在するとはな」
「はい。それで、相談というのは神石の事です」
俺達は疑似コネクトするためにお互いの生体デバイスを触り、意識を真っ白なシミュレーション空間へと飛ばしていた。情報を交換する際、データを直接表示できるので便利だからだ。
「この四日間、毎日精神力を注ぎ込んだおかげで一万近く貯まってるんです。これを一気に使って、世界を発展させたい。だけど、寮は監視カメラで見張られてるから……」
桜ノ島高校の寮生は授業料も、最低限の生活費も、寮費さえも全て無料だ。
その代わり私生活が監視カメラによって管理されており、それは個人の部屋にまで配置されている。
「あの監視カメラに生体デバイスへ干渉する機能がついていたらと思うと……、下手に動けないんです」
俺が不安を吐露すると、蓮華姉さんはしばらく悩んだ後、
「――ならば、私の部屋へ来るといい」
と、俺の肩を力強く叩いた。
ブックマーク高評価ありがとうございます!嬉しかったのと、この先が面白いので、前倒しで本日二話追加更新します! あと、世界観を深く知ってもらう為の番外編も公開するのでよかったら読んでみてください!




