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コネクトワールド~俺の脳内異世界が最強すぎるし、次々に進化していっておかしい~1巻完結  作者: 阿良あらと
第四章『VS伊集院透夜、そして』

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第28話


 仮想空間から現実へと引き戻されると、そこに伊集院透夜の姿はなかった。

 溢れる歓声は全て俺へと向かっており、宮崎先輩が力強く叫んだ。


「新条選手に続き、ジャイアントキリングを達成しました神代選手に大きな拍手を!」


 鼓膜が破れそうなほど大きな拍手に対し、俺は四方に手を振って応える。


「それでは獅子島君、神代選手の試合を見てどういった感想を抱きましたか?」


 パラパラと止まる事のない拍手が獅子島先輩が解説するとなるとピタリと止んだ。

 やはりランキング一位の感想が気になるのだろう。


「戦ってみないと分からんが、神代自体も試行錯誤している節があったな」

「というと?」

「あのエルフ二人の魔術だが、完全に制御できているのなら出力を抑える事もできたはずだ。いくら伊集院が強力な武器を揃えていようと、実力差はかけ離れていた」


 流石は獅子島先輩、痛い所を突いてくる。

 今後の黒田とのやりとりを考えると全部コントロールできると思わせた方が有利だったのだが。


(まぁでも、誰かに分かってもらえるって心地良いものだな)


 そういう意味では伊集院透夜は孤独すぎたのかもしれない。

 誰よりも美しさを求め、誰よりも強さを求めた。


(だからと言って許される話ではないが……)


 そろそろ舞台から降りようかと考えていると、突如生体デバイスにメッセージが飛んできた。


 送り主は柊木先輩だった。

 『急ぐんだ!』というメッセージと共に添えられた写真データを開いた瞬間、全身から汗が噴き出した。


 写真は桜ノ島高校から南へ数百メートル歩いたところにある大きな公園。

 そこにいたのは伊集院透夜と篠田先輩、そして彼女の背中に隠れる美沙がいたからだ。


「くっ!」


 誰にもバレないように限定解除(ブースト)を発動させながら、急いで多目的ホールから抜け出す。

 廊下に出ると大量の生徒に取り囲まれてしまった。彼らは観客席に入れず、ライブ配信を見ていたらしい。俺の姿を見るや否や、飛び掛かるように近づいてきた。


(くっ、このままじゃマズい!)


 伊集院透夜が無理やり美沙の生体デバイスに触れれば、強制コネクトを発動させてしまうかもしれない。


 先のランキング戦で伊集院透夜の精神力が消費されていたとしても、美沙とは雲泥の差がある。

 きっと拒否はできないだろう。


(考えろ! どうすればここを切り抜けられる……っ)


 限定解除を思考に使い、ありとあらゆる方法を模索したが、一か八か壁を走ったり窓から外に出る方法しか思いつかない。だが、それをすれば限定解除のシステムが新条グループにバレる可能性が出てくる。


「なぁなぁ神代! 俺ともコネクトしてくれよ!」

「私ファンになりました! 友達になってください!」

「私の異世界、きっと気に入ると思う!」


 こちらの事情などお構いなしに自分達の存在を主張する生徒達。

 いっそぶん殴って道を作るべきだろうか。焦りから思考が物騒になっていく。


 ピロン、と。再びメッセージが届く。


 それは柊木先輩と小鳥遊先輩からのメッセージ。


『俺達に任せろ』


 ただ一言だった。


 次の瞬間、生徒の一人が悲鳴を上げた。


「お、お化け!?」


 天井を指さし、恐怖色に染まった顔で叫ぶ。 

 すると他の生徒達も悲鳴を上げてパニックに陥り始めた。


「な、何が……?」


 動揺していると、目の前に真っ白な人魂が現れた。

 震える声で『は~や~く~し~ろ~』と人魂は俺を急かした。


(そうか! 小鳥遊先輩の異世界を柊木先輩のスパイ道具で立体映像として流したのか!)


 言葉にすると簡単そうに思えるが、廊下にいる生徒は数十人を越えている。

 彼ら全員に整合性のある映像を見せるのは至難の業だろう。


(流石は先輩達……。感謝します!)


 パニックに陥った生徒達は俺の存在をすっかり忘れて混乱している。

 俺は窓に手を掛ける。二階高さがあったが、限定解除を使えばなんてことはない。


(いけるよな、ミスト!)

『お任せください! 主様!』


 ミストの力強い言葉を信じて、俺は窓から飛び降りた。

 視界に入るありとあらゆるものを利用できるか思考する。

 自動販売機、ポール、時計、どれも遠い。


「……これだ!」


 目の前にあった木の幹を掴み、猿のように宙を舞う。

 続けて自動販売機に着地して勢いを殺さずに宙返りで地面へと降り立つ。


 一週間パルクールをし続けた成果は確実にあったようだ。


 限定解除で足の筋肉を一時的に増強し、跳ねるように目的地へと走る。


『美沙! 大丈夫か!?』


 生体デバイスで通話を試みるも、美沙からの返答はない。

 こうなったら急いで現場に行くしかないと、校門を通り抜けた所に〝彼女”は立っていた。

 ゆっくりと動く世界において一人だけ異質な存在感を放つ金髪の女性。

 下唇についたピアスを舌で触れながら、彼女は俺の姿をはっきりと見ていた。


(間違いない。この女は元ラグナロクプレイヤーのリストにいた一人……如月華蓮)


 写真データでは大人しそうな見た目だったが、あれは刑務所に収監されていたからだろう。

 現実で如月華蓮の姿を確認し、違和感がより強くなっていく。


 俺はやはりこの女を知っているようだ。


(くそっ、今はこいつにかまっている暇はない!)


 如月の横をすり抜けようとした瞬間、彼女は俺の耳にギリギリ届く声で、


「また会いに来るね。―――カイト」


 と、そう言った。


 刹那的に立ち止まりそうになったが、ミストが『主様!』と叫んでくれたおかげで足を止める事はなかった。俺はいつまで経ってもミストに助けられっぱなしだ。


(今は二人の元へたどり着くことに集中するんだ。大切なものを失わないために!)


 三車線道路は不運にも車が走っている状態だったが、俺はかまわず駆け抜けた。

 視覚聴覚、思考、勘、ありとあらゆる能力に強制解除を使い、車の波を避け続ける。


 クラクションがオーケストラのように鳴り響く道路を後にして、俺はついにたどり着いた。


「……はぁはぁ、間に合っ……た」


 強制解除を止めると、疲労感が一気に襲ってきた。

 身体がグッと重くなり、視界が少しぼやける。


「くそっ、お前が邪魔をしなければ終わっていたんだ翔子!」


 怒りの表情の伊集院と対照的に、篠田先輩は彼を憐れんでいる様子だった。


「透夜君、そろそろ気づいて! 貴方は間違っている!」

「うるさい! 翔子! 君だけは僕の味方でいなきゃいけないんだ!」


 伊集院は俺の方をキッと睨むと、ポケットから何かを取り出した。


「お前のせいで全部が狂ってしまった。絶対に許すわけにはいかない」


 プルプルと震える手で、伊集院は取り出した小さなカプセル型の薬を二粒、ぐいと飲み込んだ。


「透夜君!? 何を飲んだの!?」


 篠田先輩の叫びなど伊集院は聞こえていない様子だった。

 薬は即効性があるのか、伊集院はビクンッと大きく身体を震わせた後、空を見上げて意識の八割以上を失ってしまった。まるでゾンビのように立っているだけの状態。


「何を飲んだんだ……伊集院透夜」


 俺は伊集院に対して警戒を保ったまま、ゆっくりと近づいていく。

 ――だが、それが大きな間違いだった。


「油断したな少年!」


 警戒心はもっと広く鋭く保っておくべきだったのだ。

 公園の四方から現れた男女四人が、スマホくらいの大きさの装置を同時に起動した。


「なっ!?」


 すると生体デバイスが急に起動し、何度も見たプログラムを強制的に開始してしまった。


『主様! これは……コネクトです!!』


相互接続(インター・コネクト)を開始します】


 視界が仮想空間からミストガルドへと変化していく。

 現実から意識が離れ、完全に異世界へと飛ばされてしまった。


 ミストガルドの東端、大陸の淵に大きな霧が現れ、何か巨大な亀裂音が鳴り響いた。

 大陸と大陸がぶつかる音だと気付いた時、〝それ”が現れた。


 霧の向こうから現れた騎士団。

 先ほど戦った白銀の騎士が白馬に乗って再びこちらを侵略しようとしている。


 だが、最後に現れた玉座付きの神輿に座っている男――伊集院透夜の様子は明らかにおかしかった。


 ぐったりと意識を失っており、口からは白い泡を吹いている。

 時折がくがくと揺れていて、とてもじゃないがまともな状態ではない。


「ミスト、こっちに来れるか?」


 俺は残り少ない精神力を使い、ミストを召還する。

 光の柱が地面へと注ぎ、ミストが現れる。


(とすると、これは本コネクトではないという事か……) 


 ミストが実際のミストガルドに降臨するには踏まなくてはならない段階がある。

 英霊であり使徒である彼女が降臨するには魂を削る必要があったからだ。


「主様のお考えの通り、ここは仮コネクトと本コネクトのちょうど間くらいの世界です。簡単に言えば本当の異世界同士を仮コネクトで無理やり繋いでいる状態」


 全然簡単じゃなかったが、言わんとしていることは理解できた。


 だが、突如として十数本の光の柱が空から降り注ぎ、現れた男女の姿を見た時、理解が追い付かなくなった。


「ふーっ、やっぱ異世界は最高だな!」

「神代アキラの異世界が化け物って聞いたけど、ただの荒れた大地じゃない」

「いやいや、情報によると地下にダンジョンが広がっているらしい」


 好き勝手喋っている男女。

 それは柊木先輩が俺達にその存在自体を警告した元ラグナロクプレイヤー達。


「お前達は伊集院透夜がああなっている理由を知っているのか?」


 俺の質問は随分と間抜けに聞こえたようで、彼らはお互いの顔を見合わせた後、大声で笑い始めた。


「はははっ、所詮は高校生か!」

「坊や、世の中にはとっても怖い事がたくさんあるのよ~」

「好奇心旺盛な神代君に教えてあげよう。これはね――」


 心臓が爆発しそうな怒りを抱える。

 男の一人の説明はこうだ。


 本来、俺達は神であり異世界に大きな干渉はできない。

 だから降臨を使う必要があり、それでも小さな影響しかできないだろう。

 まして、本コネクトで他人の異世界を行き来するなんて方法は限られている。


 その一つが『自白剤』を使う事だった。

 正確には自白剤に似た成分の薬らしいがどっちでもいい。


 要は伊集院透夜の心の境界を曖昧にすることで、門を失った異世界に入りたい放題だという。

 

「だからお前の異世界には踏み込めないけどよぉ。俺達は異世界の住人と判定される。だから――」


 男の一人、ガリガリに瘦せこけた三十代くらいの男が両手を前に突き出した。


「異世界の住人である俺が放った魔法はお前の世界に届くんだぜぇ!」


 ブゥンと巨大な魔方陣が男の両手の前に現れる。


「いけない! あれは中級魔術で山を吹き飛ばすほどの威力があります!」


 ミストが急いで魔術で対抗しようとする。


「おっと、邪魔しようとするのなら、こいつらがどうなってもいいのか?」


 ずんぐりとした太った男が、背中にいた女性魔導士達に剣を向けた。

 彼女達は新条戦の時に後方で戦っていた王妃の世界から連れてこられた奴隷だったはず。


「こいつらが死ねば、王妃……だっけ? 彼女達の大切な残りカスが完全に消えちゃうぞ~?」

「……ぐっ」


 なんて卑怯な奴らだ。

 伊集院透夜を廃人のように追い込んだだけでなく、人質を取ってまで俺の世界を壊そうとするなんて。


「きゃはははっ! 他人の異世界の住人の為に我慢してるよ、こいつ!」

「まぁ、ガキは多感だからな。異世界だろうと感情移入しちゃってるんだろうぜ」


 ガリガリの男の魔法がいよいよ完成し、まばゆい光が世界を包み込む。


「喰らえ、中級魔法〝業火の鎖(インフェルノバースト)


 光が収まると、魔方陣から巨大な炎の塊が放たれた。

 その大きさは天を覆うほどで、なぜそれほどまでの出力を出せるのか謎だった。


(いや、今はそんなことより魔法をどうにかしないと! ミストガルドが……)

「大丈夫ですよ。主様」


 ミストの力強い声に俺の心が引き締まる。


「あんなお遊び魔法でどうにかなる世界だとお思いですか?」


 ハッとした。

 俺は今まで何を見てきたのか。

 旧時代から新時代までの長い歴史、こんな魔法とは比べ物にならない力が幾度となく世界中を飛び交った。


「ひゃははっははははっ! 焼き尽くせ俺の最強……ま、ほ…う」


 男はミストガルドが吹き飛ぶことを期待していたのだろう。

 だが、豪華の炎が大地に触れる直前、その炎はパンッと弾けて消えてしまった。


「俺の炎……どこ行った?」


 男の間抜けな声に対し、ウィンドウが表示される。


【外界から微弱ながら干渉を検知しました】

【不必要な力を排除しました】


 世界樹のダンジョンで起動してしまった「生物管理システム」。

 その偶然の産物が外界からの攻撃を防衛してしまった。


「主様、ここが仮想空間に類似する空間なら、私にお任せください」


 ミストはかつて旧時代に着ていた軍服へと魔術で換装する。


「愚かな外界の人間どもよ。我が世界の怒りを知れ」


 いまだかつてないミストの怒り。

 旧時代でさえ見せなかった純粋な敵意。

 

 反撃の狼煙は今―――。



気合入りすぎて一話一話が長くて申し訳ないです。もう少しで一巻分終わりますのでお付き合いくださいませ。

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