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コネクトワールド~俺の脳内異世界が最強すぎるし、次々に進化していっておかしい~1巻完結  作者: 阿良あらと
第三章『終末戦争とランキング戦』

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第21話


 ラグナロクの激しい戦闘音と、観客の熱狂的な歓声。


 溺れるような喧騒の中で。

 俺と美沙にだけ聞こえるように、静かに、篠田先輩は絶望を語り始めた。


「貴方達はコネクトできる数に人それぞれ上限があるって習った?」


 先輩の言葉に俺と美沙は頷く。


「例えば、ね。私は透夜君としかコネクトしてなくて、だから現時点で残り三つの異世界とコネクトできるんだけど、透夜君はもう五つの枠を全て使い切ってるんだ」

「えっ、私には『近々コネクトの空きができる』って言ってきました!」


 篠田先輩は「……ごめんなさい」と、改めて深く謝罪し、説明を続けた。


「一度繋げた異世界は二度と切り離せない。その部分も習ったと思うけど、一つだけ例外があるの」

「例外……?」

「繋げた相手の異世界を……その、世界が“異世界”と認識されなくなるまで……破壊し尽くす。何もなくなった異世界はただの大地の一部としてシステムに認識されて、枠が一つ空くことになる」


 篠田先輩の言葉を聞いて、美沙が震える声で尋ねた。


「つまり、伊集院先輩にとって大切な“王妃様”の異世界を…………破壊したってことですか?」

「二年の鹿島さんは私達の中でも一番美人で透夜君のお気に入りだった。でも彼女の世界の住人は、戦闘には不向きな……平和を愛する住人が多かったの」


 俺達の網膜に一枚の写真データが送られてくる。

 そこには花畑の中で温厚そうな人々が楽しそうに笑い合い、楽しく遊んでいる楽園のような光景が広がっていた。


「……そしてこれが、今の鹿島さんの異世界」

「…………ひっ」


 送られてきた写真を見た美沙は悲鳴を抑えるように、自身の口を両手で強く塞いだ。


 そこが全く同じ地形、同じ場所である事は分かる。

 だが、あの美しかった楽園は跡形もなく、ただただ焦土と化して広がっていた。

 消し炭となった人々が折り重なるように山となって倒れている。


 頭の中の異世界とはいえ、あまりにも痛ましく残酷な光景だった。


「鹿島さんは透夜君の好きな顔立ちだったし、一番大切にされてた。彼女の世界を滅ぼしてまで枠を増やすなんて、考えられなかった」

「だったら、なんでこんな酷いことを……!?」


 美沙の叫びに対し、篠田先輩は答えを口にすることを躊躇していた。

 それだけで彼女が優しい人なのかが分かる。


 俺は彼女の代わりに、その残酷な答えを口にした。


「東雲美沙という“代わり”、いや……それ以上の存在が見つかったから、だろうな」

「……えっ」


 点と点が、線になる。

 美沙も遅れて、伊集院の狂気に満ちた真意に気づいてしまったようだ。


「……神代くんの言う通り。鹿島さんは現実世界での“王妃”の代表を担っていたの。戦闘が苦手だった彼女は透夜君に捨てられないように、誰よりも必死だった」


 でも、と篠田先輩は続ける。


「東雲さんが現れて自分の結末を悟った彼女は、すぐに透夜くんに懇願したわ。『自分の世界を壊さないで』って。優しい鹿島さんは、異世界の住人を護るためなら何でもするつもりだった。透夜君に身体を捧げても良いとさえ、言ったの」


 感極まったのか、篠田先輩の目じりから大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 そして話の核心に入る。


「透夜くんは…………その場で、鹿島さんの異世界を破壊した」

「自分の世界と別れを告げる時間さえ与えなかったのか!?」


 俺は感情が先走り、思わず叫んでしまった。

 コロシアムの大歓声にかき消されたが、その怒りは篠田先輩にはっきりと伝わったようだった。


「私も鹿島さんの異世界が大好きだった。でも、もう二度と……あの美しい世界を見ることは、でき……ない…」


 涙が止まらなくなった篠田先輩を、美沙はそっと抱き寄せた。

 その瞬間、こちらの悲しみなど知ったことではないとでも言うように、今までで一番大きな歓声が上がった。


「おーーっと!! 伊集院選手の魔法使いが騎士達の死を肩代わりしている事に気づいた新条選手! 悪魔軍団に魔法使い殲滅の指示を出したぁあああ!」


 宮崎先輩の実況通り、空間転移した悪魔が後方にいた魔法使いの近くに現れ次々と命を刈り取っていく。


「ちぃっ! 僕の美しき騎士団よ! 捨て駒など放っておいて、キングを目指しなさい!」


 ラグナロクにおけるキングとは、神である生徒自身。

 フィールドの両端にいる伊集院と新条、どちらかを倒せば勝利となる。

 もちろん仮コネクトなので現実の二人が死ぬことはない。


「透夜君にとって自分と自分の異世界の住人以外、全てが捨て駒でしかないの。だから……」


 篠田先輩は再び言葉に詰まった。

 それはとても言いにくいことで。

 一度言葉にしてしまえば、もう二度とは戻れない“破壊の呪文”なのだろう。


 だからこそ、俺は代わりに答える訳にはいかなかった。

 しばらく待っていると、篠田先輩は涙を拭ってニコリと笑った。


「……やっぱり神代君は優しいだけじゃなくて、強い人だね」


 そして彼女は真剣な表情に変わると、力強く、それでも震える声で言った。


「私の異世界とコネクトして、間接的に透夜君の異世界を破壊してくれませんか?」


 誰よりも真剣に伊集院の事を考えているからこそ思いついた、悲痛な願いだった。


 これ以上、誰かの異世界が壊れて欲しくない。

 そして“彼に、これ以上誰かの異世界を壊してほしくない”という、歪んだ愛情の裏返し。


「もちろん貴方のコネクト枠を、私なんかで埋めるつもりはない。願いが叶ったら…………私の異世界も、破壊して構わないから」


 嘘でも冗談でもない。真剣な眼差し。

 篠田先輩の覚悟は十二分に伝わってきた。


 そして皮肉にもタイミングよく決着の時は訪れた。


「……くそっ、美しくない……」


 悪魔の鋭い爪が、伊集院の身体を容赦なく貫いた。

 フィールドの上空に大きく『新条賢介 WIN』の文字が表示され、割れるような歓声が響き渡る。


「決着ーーーーっ! 一時はどうなる事かと思いましたが! 結果的には、新条選手の完全勝利となりましたーっ!」

「俺は世界を目指している。こんな雑魚に負ける訳がねぇだろうが」


 新条は何一つ表情を変えることなく、静かにステージを降りていく。

 彼とは対照的に、伊集院の表情は憎しみに満ち、醜く歪んでいた。


「しんじょうけんすけぇえええええ! 僕を汚したその罪は! 必ず償わせてやるぞぉおおおおおっ!」


 その言葉、その表情、その感情。

 もはや伊集院透夜は美しさの欠片もなかった。


 そして事情を知っている俺は、この敗北が次なる最悪の悲劇の引き金になることを強く予感していた。


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