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コネクトワールド~俺の脳内異世界が最強すぎるし、次々に進化していっておかしい~1巻完結  作者: 阿良あらと
第三章『終末戦争とランキング戦』

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第19話


 ミストガルドに『人の時代』が訪れてから、数時間が過ぎた。

 現実でもあっという間だったが、異世界の流れはそれ以上に早い。


 俺とミストは仮想空間からミストガルドを見守っている。

 真っ白で何もなかった小さな部屋もミストの為に拡張し、家具も充実させた。


「このそふぁ、はーふえるふをだめにするぅ~」


 ソファーに巨大モニター、台所や水族館と見間違えるような水槽まで設置されている。

 水槽の中にはミストガルド特有の水棲動物が泳いでいて、俺のお気に入りは七色に光る金魚だ。


 今はミストとふかふかのソファに寝転びながら、新たな歴史を歩み始めたミストガルドを眺めている。


「――主様。ミストガルドは、しばらく放置しておいた方が良いでしょう」

「放置って……、でも、今の冒険者たちにとって、中央ダンジョンはあまりにも高難易度すぎる。神として、つまりは親として、何かサポートをしてやるべきじゃないのか?」


 俺のその考えが甘いのだと、ミストは静かな口調で諭し始める。


「それは生の短い“人”である主様が、一人一人の人生を重く考えていることが原因だとミストは推察します。ですが人類という種を、一つの大きな生命体だと捉えてみてください」

「大きな生命体……?」

「はい。その視点に立てば、千や二千の年月など、赤子がようやく歩き始めた程度の時間でしかありません。――過保護に育てられた子供は、決して大成しないのです」


 私がそうだったように。

 ミストは小さく付け加えた。


 彼女の言葉通り、旧ミストガルドはお世辞にも過保護とは言えない環境だった。

 むしろ古代龍や古代エルフといった規格外の存在を考えると、あの時代こそ、もう少し神が保護してやるべきだったのかもしれない。


「時代の流れを変えるような要因が発生した際には、私がすぐに連絡いたします。主様は主様の生きる世界――現実の“はかりごと”に、集中してください」


 最愛の娘であるミスト。

 彼女は俺なんかよりずっと大人で、ずっと器の大きなハーフエルフだった。


 ◇


 週が明け。

 最初の授業は黒田の指示による「異世界発表会」だった。

 生徒は一人ずつ教壇に立って、自らが創造した異世界の写真をクラス全員の生体デバイスにデータ転送するというものだ。


 最初に呼ばれたのは前方の男子生徒。

 教壇に立った彼は不安げな表情で異世界のデータをクラスメイトに送信する。

 彼の異世界はお盆の上に砂を乗せたような、殺風景な円形の砂漠地帯だった。


「……精神力が足りなくて、土台を作るので精一杯でした」


 項垂れる男子生徒に対し、黒田は手元の端末に点数を打ち込みながら冷たく言い放った。


「――十五点」


 せめて励ましの言葉の一つでも送ってやれよ。

 心の中で悪態を吐いていると、この評価がまだマシな方だったとすぐに判明する。


「五点。話にならん。せめて大地を作れ」

「八点。水槽を作れとは言っていない」

「二点。小さすぎる。これは異世界ではなく、ただの箱だ」


 溜息交じりの辛辣な採点に、生徒たちは涙目になって席へと戻っていく。

 教室の空気は最悪だ。


 入学当初の気を使っていた黒田はどこに行ったのやら。


「――次、東雲」


 黒田が美沙の名前を呼んだ。

 隣の席に座っていた彼女がすっくと力強く立ち上がる。

 教室の男子生徒たちが「相変わらず可愛い」「頑張れー」と口々に賞賛の声を送るが、美沙は集中しているのか全く動じていなかった。


「……私の異世界です」


 投げキッスをするような動作で、首筋の生体デバイスに当てていた指をピッと前へと振りぬいた。

 全員の網膜に写真が転送されると、教室中から「おぉ…!」という歓声が上がる。


(改めて見たけど、美沙らしい良い異世界だな)


 大地はそれほど大きくはない。

 しかしながら注目すべきは中央に立つ巨大な木。

 色とりどりの小さな妖精たちが無数に群がり、楽しそうに笑っていた。


「東雲、その木の“属性”は?」


 黒田の質問に、美沙は再び指先でデータを送った。

 『属性:桃源郷』という文字を認めた瞬間、彼の身体がビクリと震えた。


「“桃源郷”……、数百万人に一人しか発現しないと言われる最高位の創造属性か。だが、東雲なら納得だな……よし、88点だ」


 予想以上の高得点。

 教室中に拍手が沸き起こった。

 超絶美少女で希少価値のある属性持ち。


 これは三年間、彼女のファンが絶えることはないだろう。


「……次、神代」


 俺にしか気づくことのできない黒田の緊張が伝わってくる。

 自分の言いつけを破って「人類の発見」を押したかどうか。気になって仕方ないのだろう。


「これが俺の世界です」


 俯瞰で見たミストガルドの写真、それから冒険者がダンジョンで戦っているシーン。

 少しばかり不鮮明ではある二枚のデータをクラスメイト達に送信した。


「うそ、もう人間がいる!?」

「やば、早すぎるだろ!」

「で、でも、世界はなんか…しょぼいというか、荒れ地ばっかりじゃないか?」


 生徒たちが驚きの声を上げる中、黒田は俺の“失敗”を確信して、ニヤリと口の端を吊り上げた。


「――我慢できなかったか、神代。だが、やはり思ったようにはいかなかっただろう?」


 その言葉には「俺の言うことを聞かなかったからエルフも世界樹も失い、更地に戻ったんだろう?」という、明確な嘲笑が込められていた。


「そうですね。もっと上手くやれるかと思ったんですけど。……傲慢でした」


 もちろん本音ではある。

 だが黒田が想像するスケールよりも、遥かに壮大なスケールでの反省。


「ふん、これに懲りたら今度からは指示通りにやるんだな」

「はい……」


 これでいい。

 黒田には俺のミストガルドを実際よりも下に見てもらわないと。

 彼の後ろとの繋がりが分からない間は色々と困るからな。


「ふん。だが、一度世界を崩壊させながらも短期間で人類を発見するとはな。その進化スピードだけは評価してやろう。――92点」


 再び、教室に拍手の音が鳴り響いた。


(もしミストガルドの本当の歴史を教えたら、全員泡を吹いて倒れるだろうな)


 俺はクラスメイトの賞賛を浴びながら、そんなことを考えていた。


 ◇


 翌日の放課後。

 俺と美沙は黒田に呼び出されて研究室の前に立っていた。


「入れ」


 中から聞こえる不機嫌そうな声。

 俺たちが中に入ると、黒田は椅子にふんぞり返ったまま、こちらを睨みつけていた。


「お前たち二人には、クラス代表として仮コネクトによるランキング戦に出てもらう」

「ランキング戦ですか?」


 そうだ、と黒田は頷く。


「桜ノ島に与する教育機関では、ラグナロクと呼ばれる戦闘シミュレーションが採用されている。もちろん日本にいて知らない訳ないとは思うが」


 いちいち余計な一言を付け加えながら、黒田は説明を続けた。


「ラグナロクは精神力を使って自身の異世界の英霊を召還するシステムだ。そして仮想空間によるランキング戦を行い、結果によって順位が上下する。営利企業もスポンサーとして出資しているため、もちろん勝利すれば賞金を貰える。それだけでなくランキング上位の生徒がいるクラスは、他のクラスより様々な面で優遇される」

「つまり、俺たちがランキング選手になる、ということですか?」


 俺の質問に黒田は面倒くさそうに頷いた。


「本来なら一年生は夏休み明けから参加するのが通例だ。だがお前達なら、今から参加しても問題ないだろう」


 その妙な太鼓判に、俺はピンとくるものがあった。


「……他にも一年生で参加する生徒がいるんですね?」


 俺の指摘は図星だったのだろう。

 黒田の肩がピクリと跳ねた。


「まあ、そうだな。一年C組の新条賢介しんじょうけんすけ。彼は中学時代からコネクトを行っており、すでに二年生並みの異世界を保有している」


 コネクトシステムは精神と肉体が安定する高校生からの使用が推奨されている。

 だけどどんな分野でも”例外”は存在する。


「新条賢介って……あの新条グループの?」


 俺の言葉に黒田は再び、今度は深く頷いた。


「そうだ。新条グループの一人息子だ。中学時代に一流のコネクトプレイヤーとコネクトしているため、異世界の多様性も一級品。……間違っても、勝てるなどと思うんじゃないぞ。大企業を敵に回したくはないだろう?」


 黒田の言葉の裏にある意味は明白だった。


(新条と戦うことになったら、わざと負けろ、か……)


「まあ、俺は勝てる戦いしかしない主義なので」

「わ、私は、もう少し異世界を育てたら参加します」


 俺たちの覇気のない答えに安心したのか、黒田は「話は以上だ。もう行っていい」と、こちらに背中を向けた。


(この最低な教師に、あと一年間も教わらなければならないのか……)


 込み上げてくる怒りを抑えながら。俺と美沙は研究室を出る。

 すると、目の前に見たこのある生徒が立っていた。


「えっと、伊集院先輩の王妃……さん?」


 一人の女子生徒が何か言いたげに、こちらを見て立っていた。

 彼女は――先日、食堂で見た、伊集院透夜の“王妃”の一人。

 一番後ろで申し訳なさそうに立っていた、あの素朴な雰囲気の少女だった。


「……あの、ね。神代くんに相談があるんだけど……聞いてくれないかな?」


 今にも泣きだしそうな彼女の声に、俺と美沙は顔を見合わせ困惑するしかできなかった。

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