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コネクトワールド~俺の脳内異世界が最強すぎるし、次々に進化していっておかしい~1巻完結  作者: 阿良あらと
第二章『世界の崩壊、そして――』

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第18話


「ぐっ……くそっ!」


 首筋に走る衝撃。

 俺と蓮華の意識は真っ白な仮想空間へと強制的に引き戻された。

 どうやらダンジョンでの探索は、ここで一旦ゲームオーバーらしい。


「あのゴブリンロード、絶対にゴブリンじゃなかっただろ……」


 俺は今しがた自分達を惨殺した、十階層のエリアボスの姿を思い出して悪態をついた。


 ゴブリンというよりは、もはやオーク。

 アスリートのように極限まで引き締まった筋肉と、ゴブリンとは思えない八頭身のスラリとした体躯。


 俺も蓮華も降神した使徒の身体にだいぶ慣れてきたとはいえ、あのゴブリンロードの神速の動きに全くついていくことができず、あっという間に首を刎ねられてしまった。


「ちなみに、現地の冒険者は十階層どころか、七階層のエリアボスすら一度も倒せていません」


 俺たちの前にミストがふわりと姿を現した。

 彼女は宙に浮かぶ立体映像型のキーボードを指先で器用に操作し、俺たちの前に一枚の資料を表示する。


▼元世界樹ダンジョン 攻略状況

・挑戦者総数:8,462人

・地下五階到達者:1,208人

・地下七階エリアボス『デススライム』挑戦者:84人(討伐成功者:0人)


「確かにあの巨大な黒いスライムは強かったな」


 蓮華が七階層での戦いを思い出して呟く。


 デススライムは金属をどろどろに溶かしたような中身が特徴の、巨大な黒いスライムだ。

 直接攻撃は一切通じず、逆に触れた武器を瞬時に腐敗させる恐ろしい体液を持っていた。


 あの時は蓮華が時間を稼いでいる間、俺が膨大なマナを解放して無理やり消し炭にすることができた。

 しかし今のミストガルドに、あれを討伐できる冒険者パーティなど一人もいないだろう。


「……冷静に考えると、あのダンジョンに迷い込んだ侍が、本気で可哀そうになってきたな」


 俺がそう言うと、ミストは無感情にキーボードを叩いて一つのデータを表示した。


「現在、倭国から転移した侍はダンジョン地下二十四階層を探索中です。地下二十階層以降は、旧時代のドラゴンを凌ぐ魔物の出現が確認されています」

「なっ……! そんな上の階層まで旧時代の魔物で溢れているのか!?」


 蓮華が驚きの声を上げる。


「はい。そして、仮コネクトの演算によれば――彼らが自力で生還し地上へ脱出できる確率は、限りなくゼロです」


 さらにミストは淡々とした口調で続ける。


「仮コネクトシステムを利用してミストガルドの時間を二千年ほど加速させてみましたが、地下十階にたどり着く冒険者すら皆無でした」


 カタカタと軽快な音を立ててキーボードを操作しながら、シミュレーション結果を語るハーフエルフ。

 その構図はかなりシュールで面白い。


 やはりミストは自分が戦うことよりも、地球の文明――特に、コネクト関連のシステムに強い興味があるらしく、今ではネットが最高の親友マブダチになっているようだった。


「主様。気になったので仮コネクトシステムを通じて、他の公開されている異世界についてもいくつか調べてみました。どうやら次元を越えて世界を接続する仕組みには一定のリスクが存在するようです」


 ミストが指先でウィンドウを弾く。すると一つの衝撃的なデータが表示された。


【事案報告:ワールドNo.20987とNo.21101の接続事故事例】

・No.20987:広大な草原が広がる、牧畜中心の世界。

・No.21101:全面が深海に覆われた、海洋生物が独自の進化を遂げた世界。

・事故内容:両世界の接続時、No.21101の膨大な海水がNo.20987へと流れ込み、大洪水が発生。No.20987の動植物は、文明ごと全て絶滅した。


 同じような事故事案が個別ウィンドウでいくつも、いくつも表示されていく。


「こんなことが……。授業ではごく稀に起こるレアケースとして紹介されていたが、まさかこれほど起きていたなんて」


 蓮華が驚愕に目を見開いていた。


「海水が世界を覆うような致命的な現象でなければ、異世界の所有者は放置するケースがほとんどなのでしょう。コネクト関連ではない職に就いたり、結婚して異世界を放置した結果、このような事案が知らない間に起きていた、なんてケースが多いようです」

「警告に気づきすらしないということか」

「成人してもコネクトを続ける割合は三割を切っているという統計もあるらしいです」


 ミストが淡々と語る、コネクトシステムの冷徹な現実。

 無数の世界が所有者である神にさえ知られぬまま、静かに滅びを迎えている。


「――だからか。ワールドレベルに大きな差があると、あれほど強い警告ウィンドウが現れるのは」


 蓮華が納得したように呟いた。

 自分たちの世界に流れ込んでくる脅威が、自らの世界を滅ぼしかねない。

 システムはその危険性を事前に警告してくれていたのだ。


「しかし、主様と蓮華様の世界は既に接続を完了しています。今から接続場所を変更することはできません」


 ミストが再び無慈悲な事実を報告する。


(……その通りだ)


 倭国から来た侍は今この瞬間も、ミストガルドの深層で死の危険に晒されている。

 俺が、俺達が彼らをそこに繋いでしまった。


 重い沈黙が流れた、その時だった。


「――その心配は、ご無用にございます」


 一歩前に出た甚平が静かに、しかし力強く言った。


「彼らが次元を越えたということは、すなわち“禁則地”へ足を踏み入れたということ。我ら倭国の侍が、あの場所へ向かう理由はただ一つしかござらん」


 甚平の言葉に蓮華が続く。


「ああ。……当代最強の侍として、この世に斬るべき敵がいなくなった時、だな」


 蓮華の説明によると、倭国の霧鉢山脈(キリバチサンミャク)にある禁則地には、かつて「人斬り殻羅ガララ」と呼ばれる、二刀流の鬼神のような侍が住み着いていたらしい。


 殻羅は定期的に人里に降りてきては村人を斬り殺し、食料を奪い取って禁則地へと帰っていく。

 その非道の限りを、繰り返していた。


 そして当時、倭国最強の侍として名を馳せていた宮野甚平。

 彼は殻羅討伐を命じられ、単身、禁則地へと向かったのだ。


「戦いは一年以上に及び申した」


 甚平は遠い目をして語る。

 どこか懐かしげで、どこか悲しげな。


「互いに片腕を失い、片足は麻痺し、視界もほとんど残されていなかった。……そして最後は、相打ちに近い形で共に果て申した」


 その日以来、禁則地へ足を踏み入れることは特別な意味を持つようになった。

 伝説の鬼神・殻羅と国を守った英雄・甚平。

 その二人を相手にしても勝てるという絶対的な自信を持つ者のみに許された、究極の試練。


 そこから逃げ帰った者は笑い者として二度と刀を握ることはできなくなるのだという。


 つまり、ミストガルドの深層を探索している侍は道に迷った弱者ではない。

 自らの意志で死をも覚悟して、最強の敵を求めてやってきた。


 倭国屈指の猛者だったのだ。


「そこへ来て禁則地はミストガルドの最強ダンジョンと繋がってしまった。現れるのはバケモノ級の魔物ばかり。……ふふ、禁則地へ向かった者達どころか、倭国そのものが滅びてもおかしくないな」


 滅びの道を予測する蓮華だったが、その表情は先程までとは打って変わってとても明るかった。

 その瞳は獲物を見つけた肉食獣のように爛々と輝いている。


「面白い。……本当に、面白い。我が倭国の侍達は今、進化の扉を開こうとしている。アキラ、私達に最高の試練を与えてくれて感謝する!」


 蓮華は俺の身体を力強く抱きしめ、一方的にコネクトから離脱していった。

 俺は今回の探索を手伝ってくれたミストの頭を優しく撫でる。


「主様。ミストは主様のお考えがとても好きです」

「ん? どうしたんだ、急に」


 ミストは少し照れているのか、こちらに目を向けずに言葉を続けた。


「これから先、ミストガルドの冒険者は沢山死ぬと思います。もしかしたら人類の文明が滅びて、世界はまた全く違うものになるかもしれない。……でも」


 彼女はそこで一度言葉を区切った。


「主様が“思いやり”と“自由”を与えてくれたから、ミスト達はただ生きるだけの存在ではなく、“物語の主役”になれました。自らの道を自らで決め、善意と悪意を選び取り、自由の下にその生を全うできたのです」


 ミストがくるりとこちらを向く。

 その瞳はいつも以上にキラキラと煌めいていた。

 誰よりも苦しく、辛い人生を生き抜いた。


 ミストガルドの英雄の言葉に、嘘偽りなどあろうはずもなかった。


「ミストは、一生、主様の味方です!」


 その真っ直ぐな笑顔は、俺が心のどこかでずっと求めていた“答え”だった。

 神として俺はどうあるべきか。世界にどう向き合うべきか。


 彼女の言葉がその全てに光を差してくれた。

 この瞬間が、俺の神としての在り方に大きく影響を与えたのは間違いなかった。


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