第17話
村の出入り口。
鋭い牙を剥き出しにして、こちらを睨みつけている黒狼。
俺は弓を蓮華は長刀を、それぞれ構える。
グルル…と低い唸り声を上げながら、黒狼はジリジリと距離を詰めてくる。
流石は古来よりこの世界に生きる狼の系譜。
相手の力量を冷静に見定め、闇雲に襲い掛かってはこない。
「アキラ、一つ聞いても良いか」
視線だけをこちらに向け、蓮華が静かに問いかける。
「戦い方、分かるか?」
「…………分からない」
俺は素直に答えた。
「ミストの知識や技術を使えるんじゃないのか!?」
蓮華が心の底から叫ぶと、その声に応えるように目の前に小さなウィンドウが現れた。
『それって、楽しいですか? byミスト』
「…………」
「…………」
異世界転生チート世代の常識を、根底から覆すまさかの一言。
俺と蓮華は返す言葉を失っていた。
そしてその隙を黒狼が見逃すはずもなかった。
「ガァアアッ!」
獣の咆哮と共に、黒い弾丸となって飛びかかってくる。
「うおっ!?」
俺は咄嗟に、勢い任せで矢を放った。
「あいだぁ!?」
俺の放った矢はあろうことか、目の前にいた甚平(蓮華)の尻に痛々しく突き刺さった。
あまりの痛みに飛び上がった蓮華の身体が、突進してきた黒狼と激突する。
奇跡的にカウンター攻撃が決まった形になったが、お互いに大したダメージはなかったらしい。
黒狼はすぐに体勢を立て直し、蓮華は顔を真っ赤にしながら、無理やり尻から矢を引っこ抜いた。
「アキラ! 二度と矢は使うな!」
「……りょ、了解」
反省した俺は弓を捨て、腰に提げた二振りの短剣を抜く。
蒼と紅の刀身が、ヒカリゴケの淡い光を反射して妖しく輝いた。
中二病っぽくてカッコいい。正直好きだ。
「ここは仮コネクトの中の世界だ! だったら俺たちの想像力を、そのまま技術に変換できるはずだ!」
「なるほど! 流石はアキラだな!」
俺達はニヤリと笑い合い、それぞれの武器を強く握りしめる。
頭に浮かぶのは今まで読んできた漫画や、見てきたアニメの戦闘シーン。
(この身体で再現するんだ)
俺がそう思った瞬間。
隣にいた蓮華(甚平)の動きが変わった。
がに股で重心を落とし、武士らしい摺り足で長刀を天に構える。
完璧な「型」だ。
「いくぞ!」
俺は強化魔術をイメージし、二人の身体能力を何重にも強化する。
一歩、踏み込む。
その動きは自分の考えを上回り、あまりにも速すぎた。
黒狼の反応が一歩どころか、数歩出遅れているのがスローモーションのように見える。
「遅い!」
蒼と紅の軌跡を描きながら、俺の短剣が連撃を繰り出す。
黒狼は後ずさりすることで辛うじて攻撃を避けていたが、その先に誰が待ち構えているかまでは、予測できていなかったようだ。
「――斬るッ!」
蓮華の鋭い掛け声と共に、長刀が振り下ろされる。
双剣の赤と青の光を断ち切るように黒狼の胴を一刀両断し、鮮血が夜の闇に舞い上がった。
「アキラ! やったぞ、勝った!」
興奮冷めやらぬ様子で、蓮華が勢いよく抱き着いてくる。
だがその肉体は、屈強な侍である甚平のもの。
美少女ハーフエルフを分厚い胸板で抱きしめるという光景は、客観的に見て何とも許しがたいものがあった。
「……まあ、シミュレーションだしな」
俺はフッと息を漏らしながら、蓮華の逞しい胸板にそっと顔をうずめるのだった。




