第13話
桜ノ島高等専門学校 教科書『コネクト概論 第一章』より抜粋
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コネクトという言葉は、広義において二種類のシステムを意味する。
一:『内部接続(Intra-Connect)』
自身の脳内に形成された異世界を観賞、あるいは干渉するために、自らの意識を接続する行為。
一般的に「コネクトする」と言う場合、大半がこちらを指す。
二:『相互接続(Inter-Connect)』
他者の脳内に存在する異世界へ生体デバイスを通じて接続し、互いの世界を隣接させ、一つの広大な世界として繋げる行為。
※コンピューター等の外部端末を利用し、互いの保存データを接続、コネクトのシミュレーションを行うことを“仮コネクト”と呼ぶ。仮コネクトはあくまで仮想空間上でのデータ再現であり、そこで起きた現象は、いかなる理由があっても本接続後の世界に持ち込んではならない。
(データが重複し、創造主の肉体及び精神に深刻な影響を及ぼす危険性があるため)
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次に、他者との『相互接続』を行った場合、世界に起こる現象について解説する。
①:世界の“確定”
例えば、自分が見知らぬ土地に足を踏み入れた時、右手の一軒家が「田中家」だったとする。この場合、その家ははるか昔から「田中家」としてそこに存在していたが、観測者である自分の中では、“その日、その瞬間に”田中家が出現したのと同義である。
『相互接続』では、これに近い現象(厳密にはより複雑な量子論的・形而上学的事象)が発生する。接続した瞬間、元々は無関係だった二つの世界が、「遥か昔から隣接していた世界」として“確定”されるのである。
②:歴史認識の“遡及的整合”
世界の“確定”に伴い、最も興味深い現象が、内部世界の住人たちに発生する。彼らの歴史認識が、新たな事実に合わせて、遡及的に“整合”されるのだ。
これは、過去の歴史そのものが物理的に書き換わる訳ではない。住人たちの記憶や記録が**「思い出すように補完」され、「勘違いが正されるように修正」**されるのである。
例:自分の世界が「溶岩に満ちた火山地帯」であり、相手の世界が「穏やかな草原」だった場合。
コネクトした瞬間、相手の世界の住人たちは、突如として隣国の存在を“思い出す”。
それまで「世界の果てまで草原が広がっていた」と記述されていた歴史書は、「古の探検家の観測ミスであり、正しくは巨大な山脈の向こうに、古来より危険な火山地帯が存在していた」と、学者たちによって“修正”される。
そして、コネクトをきっかけに、今まで二つの世界を隔てていた山脈が噴火するなどして、その均衡が崩れ、“今から”溶岩が流れ込み始める、という形で現象が発現する。
【※なぜこのような大規模な集団的認識改変が発生するのか、その根本原理については、現代科学においても最大の謎の一つとされている】
【※この認識改変が、創造主及び内部世界の住人の精神に与える影響については、未だ多くの議論が交わされている(詳細は第四章『コネクト後認知不協和シンドローム』を参照のこと)】
③:接続の“永続性”
一度『相互接続』によって「隣接された世界」として確定した異世界同士は、たとえ生体デバイスの接続を解除した後も、繋がり続ける。
その影響力を抑えたい場合は、世界の境界に関門や巨大な壁などを建築し、物理的に交流を最低限に抑えるしかない。
※どうしても接続の影響を断ち切りたい、あるいはそれによって深刻な問題が発生した場合、速やかにお近くの“コネクト相談所”に相談することを推奨する。
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俺と美沙が同時に「可愛い」と呟いたことで、蓮華姉さんはさらに顔を真っ赤にして狼狽えていたが、コホンと一つ咳ばらいをして、無理やり威厳を取り繕った。
「……と、とにかく! 美沙殿ではレベル差で無理だったのなら、私が試すのが道理だろう!」
「は、はい! ぜひお願いします、蓮華先輩!」
美沙も自分のことのように目を輝かせている。
俺と蓮華姉さんは向き合い、互いの首筋にある生体デバイスにそっと指をあてた。
【相互接続を開始します】
【ワールド“ミストガルド”と、ワールド“倭国”の照合を開始……】
【……警告。ワールドレベルに著しい差異を検出。通常接続では、“倭国”が“ミストガルド”の奔流に耐えきれず、崩壊する危険性があります】
やはりダメか。
俺がそう思った瞬間、ウィンドウに新たな提案が表示された。
【代替案を提示します:“倭国”を、“ミストガルド”の未踏破領域内の一部として接続します。これにより、両世界のレベル差を相殺し、安定した接続が可能となります】
【接続の根拠:“倭国”の『霧鉢山脈』奥深くにある“禁則地”。古来より、そこは異界と繋がる“神隠しの森”と伝承されています。この“事実”を基点とし、時空間の狭間を生成します】
【この接続方法を許可しますか?】
俺たちがいるコネクト中の仮想空間――真っ白で、正方形の部屋――には、二つの巨大なウィンドウが浮かんでいる。一つには俺のミストガルドが、もう一つには蓮華姉さんの倭国が映し出されていた。
「まさか、これほどとはな……」
蓮華姉さんは、俺の世界が映るウィンドウを、うっとりと見つめながら感嘆の息を漏らした。
彼女の言う通り、二つの世界は、あまりにも規模が違った。
蓮華姉さんの倭国は美しく作り込まれてはいるが、まるでトレーの上に土を盛り、山や川を形成したような、まさに「箱庭」そのものだった。
切り取られた一つの完結したマップ。
対して俺のミストガルドは地平線の先が見えないほど広大で、神である俺ですらまだその全てを把握しきれていない。
俺たちがお互いの世界を眺めていると、突如、けたたましい警告音が部屋に響き渡った。
『警告:ミストガルドから倭国に魔物やダークエルフが流入した場合、“倭国”の世界に滅びの未来が可能性として検出されました』
物々しい書体で表示された警告文。
蓮華姉さんは、しばらく唇を噛んで悩んでいたが、やがて、覚悟を決めたように顔を上げた。
「――倭国は、侍の世界。戦いから逃げるような軟弱者は、一人も存在せぬ」
彼女は「コネクトを許可する」のボタンを押した。
その瞳に、迷いは一切なかった。
俺も彼女の覚悟に応えるように、続いてコネクトを許可する。
【コネクトを開始します】
【接合箇所】:倭国・霧鉢山脈禁則地 ⇔ ミストガルド・中央ダンジョン地下23階層
【接合部】:倭国側・古びた鳥居 ⇔ ミストガルド側・巨大な魔水晶
【接合距離】:三メートル
【転移条件】:身体サイズに対し、一定以上の魔力を保有する生物。及び、該当生物が保有する全ての物質。
巨大なウィンドウに、システムがコネクトのプロセスを淡々と吐き出していく。
俺たちに干渉する余地はない。
ただただ、二つの世界が繋がっていくのを眺めていることしかできなかった。
「……後出しになってしまい、申し訳ないのだが」
ウィンドウを見つめたまま、蓮華姉さんが小さな声で言った。
涙を必死にこらえているのか、その声も、固く握りしめられた拳も、微かに震えている。
「私がアキラとコネクトしようと決めたのには……一つ、私的な理由があるのだ」
そして彼女が次に発した言葉は、俺にとってあまりにも衝撃的だった。
「私は君の異世界に…………カイトがいるのではないかと、強く、期待しているのだ」
カイト、神代カイト。俺の兄であり、事故で死んだ二度と会えない人。
蓮華姉さんにとっては一つ年上の幼馴染。
(兄さんが俺の異世界に……いる?)
蓮華姉さんはもう一度力強く、言った。
「神代カイトが君のミストガルドに存在しているのではないか。そう考えているのだ」




