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コネクトワールド~俺の脳内異世界が最強すぎるし、次々に進化していっておかしい~1巻完結  作者: 阿良あらと
第一章『異世界の神となる』

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第9話


 俺は自分の世界「ミストガルド」を俯瞰しながら、小一時間ほどウィンドウを見つめ続けている。

 『人類の発見』のボタンを前に二つの理由で躊躇していたからだ。


 一つ。

 この壮大で、危険で、そしてあまりにも過激な世界を、人類が生き抜けるかどうかの心配。

.

 もう一つ。

 人類が持つ“悪意”への恐れ。


 ドラゴンも、エルフも、森の獣たちも、その本質は「善」だ。食事や縄張り争い以外で、他者を貶めたり、殺したりはしない。神に反旗を翻したダークエルフくらいだろうか、本質的に悪意を持っている存在は。

 そんな調和の取れた世界に、弱く、卑怯で、時に残酷になれる「人類」という種を登場させる責任。


(本当に良いのだろうか……)


 俺が迷っていると、ふと、大陸中央の湖に目が留まった。

 湖面に浮かぶ巨大な蓮の葉の上で、美しきエルフの男が静かに座り、空を見上げていた。俺の視線に気づいているとは思えないが、そのエルフは明らかに俺に向かって親指をぐっと突き立ててみせた。


 それがエルフにとって何を意味するのかは分からない。だが、俺たちの世界では、間違いなく「肯定」や「グッドラック」を意味するジェスチャーだった。


 まるで、世界そのものに背中を押されたような気がした。

 俺は大きく頷き、決意を込めてボタンを押した。


【人類の発見:コスト1000(熟練度MAX)】


 ――瞬間。

 森の奥から、毛むくじゃらの類人猿の群れが湖の畔へと飛び出してきた。前傾姿勢のそれは人類と呼ぶにはまだ早い、どちらかと言えば猿に近い種族だった。


「なるほど。この世界の人類は、猿から進化するパターンなのか」


 神話型だから神に似た姿の人間が土から現れるのかとばかり思っていた。


「面白い……」


 俺は興味深く、その様子を見守る。

 類人猿は湖のほとりで生活を始め、あっという間に火を発見し、石を積み上げて家を作り始めた。世代を重ねるごとに、その背筋はまっすぐと伸び、体毛は薄くなっていく。


 やがて、彼らが最初の“村”と呼べる集落を完成させた時、突如、壮大なウィンドウが世界に現れた。


『おめでとうございます。人類が誕生しました。ミストガルドは40,509,429,292番目の世界として認証されました』


 謎の祝福と意味不明な認証番号に戸惑っていたら、バチッ!と目の奥で強い火花が散った。

 目の前に、新たなウィンドウがファンファーレと共に表示される。


『貴方は“世界の種”から、観測史上最速で人類のいる世界へ発展させました。特典として三つの宝箱の中から一つをお選びください』


 目の前に、豪華絢爛な三つの宝箱が現れた。

 左右の二つは、いかにも強そうなオーラを放っている。


【最強種族の発見】 【古代兵器の開発】


 だが、心惹かれたのは中央に置かれた一回り小さな木彫りの宝箱だった。


【新たな感情の芽生え】


「“新たな感情の芽生え”って、何だ?」


 俺がウィンドウに尋ねると、すぐに答えが表示された。


『今の世界にない感情が、いくつかの生物に芽生えます。それは、神である貴方の性質に強く影響されます』


 正直、この宝箱を選ぶ神は少ないだろう。

 コネクト関連の人生を歩もうとしている者の大半は、強さを求める。

 彼らを雇用する企業がそれを求めているからだ。多様性なんて、評価の対象にすらならない。


 俺はウィンドウから目を逸らし、自らの世界を見つめた。


 古代龍。世界樹。エルフ。そして人類。

 ネットのどこを探しても見つからない、俺だけの世界が広がっている。

 ここでさらに強さを求めれば、あるいは、校内ランキング一位も、“世界一”も目指せるかもしれない。


「……世界一、ね」


 自分で言った言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

 俺の中で、「世界一」の存在は、永遠に変わることはないのだから。


「――兄さんなら、きっと俺の選択を、認めてくれるよな」


 俺は、中央の小さな宝箱を、そっと開けた。


『貴方は素晴らしい特典を選択しました。ミストガルドのいくつかの生物に、新たな感情“思いやり”が芽生えます』


 その言葉通り世界に、奇跡のような光景が広がり始めた。

 人類が森で出会った狼に食料を分け与え、その背を撫でる。ドラゴンが巣から落ちた雛鳥を、優しく口にくわえて巣に戻す。エルフが人類の村を訪れ、その知恵を授ける。


 支配者なき時代と呼ぶに相応しい、誰もが隣人であり、友人である世界が、そこにはあった。


 ただ、一つだけ。

 森の奥深くに住むダークエルフたちに、“思いやり”の感情が芽生えることはなかった。

 そして、地下のダンジョンで外界との交流を絶った古代エルフも、同様だった。


 このことが、後にミストガルドの歴史に大きなうねりを生み出すことになるのだが、今の俺にはその一端すら予想することはできなかった。



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