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コネクトワールド~俺の脳内異世界が最強すぎるし、次々に進化していっておかしい~1巻完結  作者: 阿良あらと
第一章『異世界の神となる』

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番外編『黒田理人の憂鬱な報告書』


 深夜の桜ノ島高校。


 夕陽に照らされオレンジに染まる教室。

 俺――黒田理人は、苦虫を噛み潰したような顔で、目の前の端末と睨み合っていた。

 生体デバイスを通じて網膜ディスプレイに表示されているのは『昨年度担当クラス 異世界評価報告書』のテンプレート。

 提出期限は、今日の午前零時。


 つまり、あと数時間しかない。


「……チッ。全く、毎年毎年、クソ面倒な報告書を山のように作らせやがって」


 俺は抑えきれない悪態を吐きながら、安物のコーヒーを啜った。


「理想論ばかり掲げる桜ノ島コネクトとかいうクソ企業は、もっと新条グループの合理性を見習って欲しいものだ。結果が全てだろうが結果が」


 とはいえ、愚痴っても仕方ない。

 俺は気を取り直し生体デバイスを操作した。

 生徒達の机の上に、昨年度担当したクラス――40人分の異世界のホログラムが、淡い光の立体映像となって浮かび上がる。


 まるでゴミを仕分けるかのように、指先でそれらを弾く。


(いや、こんなつまらない異世界ゴミ同然だろ…)


 分類していくと、大きなため息が漏れた。


「それにしても……去年は本当につまらんクラスだったな。良くも悪くも、極めて平均的だ。金の卵は一羽もいなかった」


 報告書を作成するため、俺は異世界を大まかに分類し、その統計を端末に打ち込んでいく。

 この作業自体は、もう何年も繰り返している慣れたものだ。


【レポート:昨年度クラス異世界評価報告書】


A:異世界形成における概念別種類報告

ファンタジー型:75%(30名)

≪内訳≫

人類型(剣と魔法、中世ヨーロッパ風等):25名

亜人型(エルフ、獣人、ドワーフ等):3名

動物・魔獣型(モンスターが主役等):2名


地球型:20%(8名)

≪内訳≫

中世・近世(歴史再現、ifルート等):4名

近代・現代(パラレルワールド、現代日本風等):4名


SF型:5%(2名)

≪内訳≫

宇宙型(スペースオペラ、惑星開拓等):1名

概念・抽象型(数学的世界、精神世界等):1名



B:異世界形成レベルの内訳

―――――――――――

レベル0:文明の形成に失敗、もしくは未到達

対象者: 1名(安島 ※退学済み)

観察報告:

SF概念型に分類。元生徒・安島は「世界の土台は形あるものとは限らない」と授業を無視し続け、土台のない空間に生命を発生させようと試みた。


本人曰く「アメーバのような不定形生物」が現れたが、維持できず即座に霧散した模様。


入学前の家庭環境に問題があり、「自分(生命)を枠組み(土台)に拘束されたくない」という無意識下の願望が、コネクトシステムの根幹ルールと衝突し、暴走した結果と推察される。

評価: Eランク(測定不能)。商品価値皆無。

――――――――――――

レベル1:土台の創造に成功。人類(または主要知的生命体)の発見には未到達。

対象者: 15名

観察報告:

レベル1に留まる生徒は、全ての異世界タイプに共通して見られた。主な原因は、創造主の圧倒的な知識不足である。


漫画やアニメ、ゲーム等で得た表面的なイメージだけで世界を構築しようとするため、細部のリアリティが欠如している。例えば、「中世ヨーロッパ風」を謳いながら、そこに住むであろう人々の生活様式、文化、経済システム、政治形態といった“生活感”に対する想像力が致命的に不足しているため、システムが知的生命体の発生を許可しない。

評価: Dランク。基礎的な知識を習得させればレベル2への引き上げは可能。素材としての価値はある。

―――――――――――

レベル2:人類(または主要知的生命体)の発見に成功し、文明の維持が可能。

対象者: 22名

観察報告:

一年間の努力の結果、対象生徒の多くが知的生命体の発見に成功。特筆すべきは、全生徒が文明崩壊を起こすことなく、安定した維持管理を行えている点である。


彼らの多くは、日頃からアニメ、漫画、小説、映画といった創作物に触れ、想像力を育んでいる傾向が見られる。しかし、その反面、既存の作品の影響を強く受けすぎているためか、『型にはまった』類似の文明構造を持つ世界が多く、独創性に欠けるのが惜しまれる。


例外として、生徒・金沢は、歴史小説や時代劇への深い造詣を活かし、極めて正確な「江戸時代風」の世界を再現している。本人にファンタジー要素(魔法や妖怪など)の導入を促したが、「自身の知識体系と矛盾が生じ、世界観が破綻する」として断念。今後は歴史再現の精度向上に注力するとのこと。


評価: C+ランク。安定性は評価できるが、独創性が低いため、商品価値は限定的。金沢のような特化型は、専門分野での需要が見込めるためB-ランク。

―――――――――――

レベル3:人類(または主要知的生命体)に加え、さらなる「上位種」の発見にも成功している。

対象者: 2名(井上 修司、高橋 真央)

観察報告:

井上、高橋の両名とも、「エルフ(通常種)」の発見に成功。どちらの世界のエルフも、人類を凌駕する魔力を保持しており、今後の発展が期待される(ただし、根源的な生命エネルギーである「マナ」の操作には至っていない)。


両名とも、ランキング戦でも安定した成績を残しており、性格も勤勉かつ努力家である。指導次第では、他の上位種(ドワーフ、ドラゴン等)の発見も十分に可能と判断される。


評価: B+ランク。将来性が高く、育成次第ではAランク(プロレベル)も視野に入る。要注目対象として、連絡先を記録しておく。

井上 修司:(連絡先)

高橋 真央:(連絡先)

―――――――――――


「……まあ、こんなもんでいいだろう」


 俺は毎年、この報告書は適当な内容で済ませている。

 そもそも、このレポート自体が、理想論ばかりを掲げるスポンサー「桜ノ島コネクト」の意向で作成させられているものだ。


 俺を個人的に支持し、様々な“便宜”を図ってくれている新条グループには、もっと詳細で実践的なデータ(生徒の弱点や、利用価値など)を毎月、別途送信しているのだから。


「……俺は、どこで間違ったんだろうな」


 ふと、そんな感傷的な考えが頭をよぎる。

 俺の将来の夢は、コネクト技術の研究に携わることだった。

 想像力が衰え始めた高齢者でも、豊かな異世界を創造できるような、補助デバイスを開発したかった。  

 知識は誰にも負けない自信があった。

 一流大学にも進学した。


 だが、コネクト開発企業の大手、その最終面接で俺は衝撃の一言を喰らった。


「――君の異世界、致命的につまらんな」


 俺は必死に食い下がった。

 異世界の質と、研究者としての実力は関係ないはずだ、きっと良い結果を出してみせると。

 しかし彼らは鼻で笑い、こう言い放ったのだ。


「その、面白みのない返しが、もう君の異世界そのものだよ」  


 面接官の彼らは、世代的に生体デバイスを装着しておらず、コネクトなど一度もしたことがない連中だった。


 つまり彼らは、俺の“つまらない世界”すら、持っていなかったのだ。


「……たまたま持っていた教員免許で、教師になったが。……下らん」


 本当は、分かっている。

 俺は俺自身の異世界の“つまらなさ”を、誰よりも理解している。


 だから、辛いのだ。


 若く、才能に溢れた生徒たちが、俺には到底創り得なかった、「面白く」「壮大な」異世界を、いとも容易く創造していく瞬間を、教師として目の当たりにするのが。


「神代アキラ……。お前もまた、“天才”なのか……?」


 教師生活を送っていると、時折、天才と呼ぶべき生徒に出会う。


 精神力の天才、創造力の天才、様々だ。


 だが、今年の生徒である神代アキラは、何かが違う。  

 天才、というよりは……“規格外”。


 海の生物が、初めて陸に這い上がったように。

 猿が、初めて二本の足で立ち上がり、人類へと進化したように。


 神代アキラという存在は、精神的な次元で、人類から次のステージへとステップアップしてしまったのではないか。


 そんな、根源的な恐怖さえ覚えてしまう。


「い、いや……考えすぎだ。そんなことがあるはずがない」


 本当の天才は、別にいる。例えば……。


「失礼します」


 コンコン、と控えめなノックと共に、教室のドアが開いた。


 入ってきたのは、二年の女子生徒だった。


 名前すらすぐには思い出せない、成績も平凡な“落ちこぼれ”。

 だが、今の俺にとっては――誰よりも“大切な生徒”だ。


「あ、あの……先生。今日も、お願いしたいんですけど……」  


 上目遣いで、懇願するように彼女は言う。


 俺は作りうる限りで最も優しい笑顔で答えた。


「ああ、もちろんだとも。私の“特別指導”があれば、君の異世界は、これから飛躍的に進化する」

「……っ! はい!」


 ぱあっと顔を輝かせる彼女を連れ、俺は研究室へと向かう。

 こんな教室では、何もできないからな。


「あ、あの、先生。一つだけ、質問があるんですけど」

「ん? なんだね?」


 研究室へ向かう廊下で、彼女は少しだけ迷った後、言いづらそうに尋ねてきた。


「コネクトって、座ったままでもできるのに……どうして、あの部屋の、ベッドで寝転んでやる必要があるんですか?」


 俺は、一瞬の間を置いてから、完璧な笑顔で答えた。


「…………君の異世界の成長が他の生徒より遅れている理由は、心がリラックスできていないからだよ。あの部屋のベッドでコネクトすれば、きっと落ち着いて、素晴らしい創造ができるようになる」

「……っ! はい! ありがとうございます、先生!」


 少女は、何の疑いもなく、満面の笑みで俺の後についてくる。

 二人の姿は、研究室の暗闇へと、静かに消えていった――。


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