マイナス宇宙速度
地球に落下せずに周回できる速度は7.9km/sで、第一宇宙速度と呼ばれる。
地球の重力から脱出できる速度は11.2km/sで、第二宇宙速度と呼ばれる。
太陽の重力を振り切って深宇宙へ旅立つ速度は16.7km/sで、第三宇宙速度と呼ばれる。
では逆に、第ゼロ宇宙速度とは何だろう? 地球に対して速度を持っていないから、僕たちが地上で立っていることこそ、第ゼロ宇宙速度と呼べる。
さらにその考えを展開したら、マイナス宇宙速度と呼べるものができる。宇宙に飛び出すものではなく、地球に落ちるような速度。
それは普通の重力じゃないかって? 確かにそうかもしれない。でも重力は加速度という単位だ。速度とは少し違う。
僕はここに本質があると考えた。つまり、地球の真ん中に向かう速度。それこそが、魂が地球にしか存在しないのではないか、と考えた所以だ。
僕たちは深宇宙に向かって、第三宇宙速度で太陽系を脱出した。人類の繁栄を象徴する、偉大な旅立ちだった。でも、突然子供が生まれなくなった。多くの科学者が解明しようとしたけど、無駄だった。
やがて魂の存在が明らかになり、それがなければ生命は生まれないことが分かった。魂は捕まえることも、生み出すことも不可能な存在。だから旅立った人類はどんどん数を減らしていった。
そして魂は、地球の重力に引かれていることが分かった。
地球は、僕たち地球生命体の母だったんだ。魂を生み出し、生命を繁栄させる存在。そして僕と君は、それに抗う反抗期の子供。子供である人類に新しい世界を見せるのは、僕たちの役目だ。