第三話
教室で一悶着あった後、俺たちは各々帰路についていた。
凪は、まだ色々話したいことがあったらしいが、もう遅いからと俺が反対したんだ。
「バンド、、、、、っバンドかあ」
すでに日が暮れ、街灯の光だけがみちしるべの誰もいない道で、俺はふとつぶやいた。
俺がここまで悩んでいるのには訳がある。
俺がまだ小さくて可愛かった頃の話だ。
その頃の俺には姉がいた。
その頃の無邪気で何かと暴れては人に迷惑をかけていた俺とは違い、姉は成績優秀、容姿端麗、誰とでも仲良くなれて、、、、、、まさに完璧と言える存在だった。
そんなどこに出しても恥ずかしくない姉を幼いながらに誇りに思っていた。
姉は姉で、俺のことを可愛がってくれていたし実際、姉弟関係も良かった。
そんな姉も幼少期からアイドルに憧れ、目指していた。
そんな中、俺が小学四年生になった時、
その日も今と同じような日が暮れた夜中のことだっあ
「やった!やったよ、我が弟よ!」
姉が喜び勇んで、ドアを蹴り破らんとする勢いで、もう寝ようとしていた俺の部屋に入り込んできた。
「ど、どうしたの?今日も可愛いってこと?それとも痩せた?」
「両方!ありがと♡」
お互いに顔を見合わせひとしきり乾いた笑いをしあって、、、、、
「って、、!違うわいっ!」
「うわっ!」
「そんなことよりもこれ!これみて!」
そう言って姉は手に持っていた少し汗が滲んでいる封筒を手渡してきた。
書かれた差出人の名前を呼んでみる。
「アイドル事務所 『ステラ』から、、、?なんでまたうちのお姉ちゃんに?」
「中開けてみて!中開けてみて!」
「そんな急かさないでって」
俺は隣で騒いでいる姉を横目に見ながらすでに綺麗に開封された封筒から手紙を取り出す。
桜はそれをソワソワしながら今か今かと見守っている
「ええと、、、
『親愛なる星乃 桜様へ
この度は弊社の企画「新星アイドル発掘オーディション⭐︎」にご参加いただきありがとうございます。
厳正なる審査の結果、星乃 桜様は
『合格』
となりましたことをお伝えいたいします。」
俺は驚きながら姉の方を勢いよく顔をあげてみた。
「ふっふーん!すごいでしょ!アイドルを目指してから苦節10年、、、、ようやく私の夢が叶ったのよ!」
「いや、売れるかどうかとかはまだ別じゃんw
それでもすごすぎるよお姉ちゃん!あのオムツを変えてあげていた姉もついにアイドルか、、、、
感慨深いなあ、、、、」
俺は本当に嬉しかった。今まで応援していた姉がアイドルになるということも嬉しかったし、
何よりアイドルになれると姉が喜んでいることが1番嬉しい。
俺がそう感傷に浸っていると
「弟さんよ、、、、姉がアイドルになるのがいくら嬉しいからと言ってその顔はないと思うぞい、、、」
姉に言われて俺はハッとして顔を触ってみる。なるほど、俺は表情筋が盛り上がるぐらいにやけていたらしい。
いかん。いかん。小四のにやけている顔なんて需要がなさすぎる。
俺が自分を必死に制止していると
「すまんな、弟よ、、、もうお姉ちゃんは弟だけのお姉ちゃんではないのだよ、、、、
この身と純潔はファンのみんなに捧げたんだ」
「いや、まだファンすらついてないやろがーい!捧げるのが早い!」
「はははは」
「はははは」
こういうふざけ合う時は本当に兄妹なんだなあと実感する
だって似すぎているんだもん
「俺がお姉ちゃんのファン第一号になるよ!この称号だけは誰にも譲らんぞ!」
「智は本当に子供だなあ。私のこと好きすぎでしょ!」
そう言う姉の口調は急に優しいものに変わっていた。顔を見れば愛くるしいものを見つめる最大級の慈愛の目をしている。
それは何か申し訳ないことがあるようなしかし、何かを心に決めて決して折れない芯ができているような雰囲気をしていた。
「智、、、私はね、、、もうあなたとは暮らせないんだ」