第二話
「は?」
俺は彼女の言葉に耳を疑った。
もしかしたら俺の耳がおかしいのかもしれない
普通の人間が急に赤の他人をバンドに誘うわけがない。うん。気のせいだ。
「あ、名前がまだだったわね!私は鳴海 凪。気軽に凪って呼んでね!」
智影は脳があまりの事態についていけず、ぽかんとしながら彼女、、、もとい凪を見上げたまま動けなくなっていた。
あえ?なんか急に話が飛んでる気がするなぁ〜
は!いかんいかん、今俺が止めないとやめられない、止まらないになってしまう!
「ん?え?ちょっと待とうか、なぎさ、、、、さん?」
「はい、なんでしょうか?なんでも聞いてくれたまえよ!星乃くん」
「とりあえず落ち着いてもらえませんか、、、?」
「、、、、、、」
うん、静か。怖いほどに静か
顔を冷たい汗が流れていく。
ほんの数秒間。と言っても本人たちには永遠にも思える時間の後、
「、、、え?私うるさかった?」
凪は泣きそうな顔をしながら、机から離れ、こちらによって来てしゃがみこんで俺の顔を見てきた。
「う、うん。結構、、、ね?」
「まじかぁ、ごめん、、、、、」
今にも消えそうな声で目に涙を溜めて凪が謝ってきた。
こう言う場合どうしたら良いんだ?
女の子が泣いている時の対処法なんて俺が知ってるわけないだろ!
と、とりあえず慰めるか?
俺がそう慌てていると
「本当にごめんね?私こうやって男の子を誘うの初めてで、、どうすればいいかわからなかったの。
あなたならアイドルできるかもって興奮しちゃってはしゃぎすぎたよね。ごめんね。」
彼女はまたもや謝ってきた。
もう俺が何も言わないのは流石に失礼だよな、、、
「ええと、落ち着いてくれたみたいで良かったよ。
バンドのやつって結局どう言うこと?」
俺がそう彼女にフォローを出すと
彼女の泣きそうだった顔は一気に元気を取り戻していき、満開の花畑が咲いたような一億点満点の笑顔を見せてくれた。
(危ない、、、少しでも気を抜いたら堕とされそう、、、)
「言葉通りの意味!私とバンドをやってくれない?そして、頂点目指しましょう!」
「お、おう。夢が大きいのは良いことだけど、どうして俺と、放課後の教室で叫んでいたヤバいやつとアイドルやりたいと思ったの?」
そこが俺のいちばんの疑問点だった。
『なぜ俺とバンドを組もうとしているのか?』
俺から見ても、はっきり言って初対面印象は最悪だっただろう。
放課後の教室で黒歴史にすらなり得るポエムを叫んでいる奴がいたのだ。
誰だって、関わるのを避けるだろう。彼女の反応もそれを示していた。
だが、その中で急に態度が変わってバンドになろうと言ってきたのだ。
失礼だが何か裏があるのではと疑わないほうがおかしいだろう
俺がそんな考えを巡らせていると
「あなたが今持っている本」
彼女は俺の本を指差しながら続ける
「その本からは『オリオン』への大きな愛情が感じられたの。
そのたくさんの書き込みからも、一見ボロボロに見えるけど目立った傷が一つもなく大事にしているだろうことも、付箋がたくさん貼られているところも、そして、どんな時でもその本を最優先で動こうとしたところも。」
「星乃くんの行動一つ一つが『オリオン』のことが好きだなぁ、尊敬できるなぁって考えてるって伝わってきたの。私はそんな人とバンドをやって見たいと思ったの!」
俺は動けなくなった。
なぜかわからないけれど、胸が熱くなり、手が震えている。
あぁ、そうか俺は認められたことが嬉しかったのだ。
いままで俺のアイドル好きを認めてくれる人なんてそうそういなかった。
認めてくれても、どれだけ真剣かは理解してくれなかった。
それなのに、彼女は彼女だけは、あの本を見ただけで俺を認めてくれた。
俺の欲しい言葉をかけてくれた。
だから嬉しかったんだ。
そう思うと、顔を生暖かい何かが流れていくのを感じた。
「ど、どうしよう?急に泣き出しちゃって。大丈夫?ハンカチいる?」
凪は慌てながら俺を慰めようとしてくる。
俺はそんな凪を見ながら、俺が泣いていることに気づいた。
「あれ?俺泣いている?ごめんすぐに泣き止むから待ってて」
そういって目頭を拭って、俺は再び凪の顔を見る。
「俺、ここまで理解してもらえたのは初めてなんだ、、、いつもアイドル好きってだけでキモがられて、、、本当に嬉しかったんだ」
「じゃあ!」
凪の顔はぱぁぁと明るくなったが
「すまない、少しだけ考えさせてくれないか、、、?
詳しくは言えないがちょっと事情があって、、」
その言葉を聞いて凪は不思議そうな顔をしながら首を傾げた。頭の上に見える気がするはてなもセットだ。
「今の流れは完全に一緒にやる流れじゃない、、、?まあ、いいけど早めにお願いね?」
返事を保留したにもかかわらず凪は嬉しそうに笑っていた。
俺は少し悪い気もしながらなぜか見ていて悪い気はしなかった。
ふと俺がずっと思っていた疑問をぶつけてみた
「ところで凪、なんでアイドルじゃなくてバンドなんだ、、?
「、、、、、、」
「凪?」
「ま、まあそんな細かいことは気にせずに、、、ね?」
「待て待て待て、、ほんとに俺の本読んで感動したから誘ったんだよな?」
「そ、そうだよ?」
そう返事をした凪の目は泳ぎまくっていた
「で、本当の理由は、、、?」
「文化祭でやるバンドのボーカルが1人足りなかったんですぅ、、、」
「、、、、、、、」
まじかよ
「じゃあこの話は無かったことに、、、、」
「うそうそうそ!感動したのはほんとだから、ね!バンドやろ?」
凪はそう言って上目遣いに見つめてくる
これに勝てる男が存在するなら俺は会ってみたい
「、、、わかったよ考えとく」
「よかったぁ」
こうして2人の仲は少し縮まった、、、?
「」
俺たちは、そう放課後の日が暮れかかった教室で約束を交わした、、、、、