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3 ソフトクリームと

3 ソフトクリームと



 道の駅の広い駐車場が八割がた埋まっていた。わたしが知らなかっただけで、ここは人気スポットのようだ。

 駐車場から売店までの間に屋根付きの広いスペースが取られ、そこでは近隣の野菜が売られていた。「産直野菜」の幟がいくつも立っている。残念な事に、今は昼過ぎで時間帯が遅いからか、残っている商品はまばらだ。


 車を降りて二人ともお手洗いに行き、体調を万全に整えると、いざ、と売り場に向かう。


 そしてラインナップを前に悩んでしまった。行く前に何を頼むかを決めていたのに、いざ、と相対せば、ほかの選択肢からの誘惑が強力すぎる。

 期間限定メニューは勿論、通常メニューだって充分魅力的なのだ。

 

「どれにしよう……」


 やっぱりイチジクは食べたい、と決めていた。絶対食べたい。だけど、マンゴーも捨てがたい。捨てたくない。ああ! でもでも! 白桃もあるんだよねぇ。

 に、二個、いっちゃう……?

 頑張って二個に絞って、二個いっちゃう?

 来たことの無いところ、特別なところ……それはリミッターを外しても良い場所……。

 外すのは今……。


「悩んでる?」


 ひょいと前かがみになった谷さんが聞いてきた。谷さんを待たせている事を頭からすこんと消していた。


「あ、すみません」


 わたしが謝れば、谷さんは、いや、と首を振った。



「なら、僕のと半分にする?」

「え?」

「うまそうだよね、どれも」


 商品紹介のパネルを見て、谷さんは言う。


「そうなんですよ!」


 意気込むわたしに、谷さんはレジの前に展示してある見本の紙カップを指さした。あ、指、長い。

 

「なら、別々のを頼んで分けようよ。コーンじゃなくてカップにしたらスプーンも付いてくるし」

「ああ、なるほど! 確かに!」


 カップなら交換しやすいよ、と提案されて、


 「お願いします!」


 と全力で答えていた。


 谷さん賢いな~、と関心していると、谷さんは

 

「じゃあ早く頼もうよ」


 とわたしを手招いた。

 

「で、どれとどれが食べたいの?」

「イチジクとマンゴーが食べたくて」

「うん了解」


 わたしはイチジク、谷さんはマンゴーをカップで頼む。ずしりと重いソフトクリームを手に、ほくほくとテーブルに着いた。

 

 ソフトクリームは素晴らしく美味しかった。凍らせて砕いた果物を混ぜ込んだソフトクリームは、シャーベットとソフトクリームの中間のような舌触りで、さっぱりしている。お腹が冷えなければ、いくらでも食べられる。

 わたしが頼んだイチジクはプチプチとした食感にやわらかな甘み、ほのかな青臭さが最高だった。


「んー! 美味しいですねぇ」

「思ったより果肉感あるよなぁ」


 途中でカップを交換した。

 谷さんが頼んでくれたマンゴーも、しっかりねっとり甘くて野性味もあって、とんでもなく美味しい。


「あー、一人じゃなくてよかった……どっちも幸せ」

「それはそれは」


 嬉しそうに谷さんは目を細める。わたしも嬉しくなった。この幸せは谷さんのおかげだ。わたしは一旦、食べる手を止めて頭を下げた。


「谷さん、連れてきてくださってありがとうございます」

「どういたしまして。――ねぇ、たーさん、てもう呼ばないの?」

「!?」


 動揺するわたしの答えを聞かずに、谷さんはソフトクリーム売り場を振り返った

 

「二人でもう一個くらい食べれそうだよな。 ね、すーちゃん、白桃食べない?」

「!? たべ……食べます」

「じゃ、買ってくる」


 すでに食べ終わっていた谷さんは、空いたカップを手に立ち上がって売り場に行ってしまう。

 

 やっぱり、なんとも自然にすーちゃんと呼ばれてしまった。

 

 というか……今の「すーちゃん」の響きが甘すぎませんでしたか? 空耳? 気のせい? いや違うな、わたしの糖度計がおかしい? 声はメロンじゃないよ!? ていうか、糖度計なんか耳についてた? いやいやそもそも人間についてないでしょう、そんなもの!!


 わたしが悶々とセルフツッコミをしながら、プラスチックのスプーンを握りしめて考え込んでると、谷さんがソフトクリームのカップを手に帰ってきた。


 「どうした?」


 あ、白桃ちゃんだ!

 現れた白桃ソフトクリームは、とけこんだ白桃が白いソフトクリームを薄っすらとピンクベージュにしている。


 谷さんはわたしの手元を覗き込む。


「食べないの? 融けてきてるよ」

「あ、やだ!」


 慌ててマンゴー味の残りを口に運ぶ。ううう、ゆるくなっても罪深い美味しさ。融けてより濃厚な甘みが舌に伝わる。なにこのリゾート感。これだから南国のフルーツはずるい。


 一方で谷さんが白桃味に舌鼓を打つ。


「これも美味いなぁ」


 三種類目のソフトクリームも嬉しそうに食べる谷さんにほっこりする。さては旦那ァ、甘いものもイケる口ですね?



 ほんとうここのソフトクリーム、当たりだなぁ。なんで今まで知らなかったんだろう。ここなら一人でも来れるじゃん。あーあ、いままでわたしは何種類食べ逃していたのか……悔やまれる。

 

 わたしがマンゴー味を食べ終わってスプーンを置くと、名前を呼ばれた。


「すーちゃん」

「はい?」

「はい、あーん」


 にこりと良い笑顔で、小さなスプーに盛られたソフトクリームが差し出された。


 あーん!?


 戸惑い固まるわたしに、にこにこ笑いながら、「ん?」なんて言いながら、スプーンを更に差し出す。ずるくないですか、それ。逃げられない雰囲気なのですが?

 

「融けるよ?」

「あ!」


 それはダメ!

 と開けた口に、そっと甘くて冷たい桃の味のソフトクリームが入れられた。


「美味しいでしょ?」


 わたしはブンブンと首を縦にふる。果物の甘さと香りがもう絶妙。

 

「おいひいです」

「だよね」


 満足気に頷くと、今度はカップを渡してくれた。


「最初からそうやってください」

「ははは」


 谷さんて……谷さんて、身構えようとするとスルッと入ってくる。


 なにこれ、怖い。

 手練れが過ぎる。


 ソフトクリームの冷たさとは別に、震える。

 え、谷先輩ってこういう人だったの!?


 と、そこまで考えて、そういえばと気づく。 

 何かと比較するほどわたしは谷先輩のことを知らない……。


 それにしても、わたしのあしらいが巧すぎませんか? わたしがチョロいだけですか?


 ちらり、と向かいに座った谷さんを見上げると、頬杖ついてこちらを見ていた。


「あ、お待たせして……」

「いや良いよ。ゆっくり食べなー」

「なんか面白いですか?」

「ん?」

「じっと見てるから」

「いや、すーちゃんは美味しそうに食べるから、ついつい見てしまう」

「そんなもんですか?」

「そうだよ。ある種才能だと思う」

「え? 予想外に天才肌でした? わたし」

「うん、チョーテンサイ」

「棒読みになってますよ」


 谷さんはずっとにこにこ笑っている。


 ……ほんとうにこういうとこ怖い。完全に彼のペースに乗せられている。

 何より、今やこの状況を楽しんでいるわたしがいるのが、怖い。


 まぁでも今はソフトクリーム。


 谷さんの問題は一旦置いといて、食べることを再開する。だって融けちゃう。口に入ってくる白桃のソフトクリームは、すうっと甘くて爽やかで、警戒心を融かしてしまう。

 ああ美味しい。


 ソフトクリームを食べ終わって、特産品売り場で出始めの夏野菜をちょっと見てから、少しだけ買い物をして、車に戻る。



「美味しかったですねぇ。――次どんな味が出るんだろうなぁ」


 車まで歩きながらソフトクリームの味を思い出してわたしが言うと、谷さんはやさしい声で言った。

 

「次も食べに来ようよ」

「ぜひ!」


 もはや自動的に答えていて、自分でびっくりした。

 

 あ、と谷さんを見上げる。ぱちりと視線があった。

 瞬間、ちょっと照れくさそうに谷さんは目を細めた。


 うわ、なんだろ、ほんとに可愛いなぁ、この人。


 ……って、あれ?


 待って。


 またこのパターン?


 あれ?




お読みくださりありがとうございました。

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