表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
在りし日の残雪より  作者: 紅月 雨降
一/初冬之章
24/25

#05 在る/君に、サンタクロースはもう来ない

 ――――それは、大人になる儀式の一つだ。


       ◇


「…………え」


 あまりにも唐突な出来事に、一瞬思考が停止する。

 いつも通りの帰り道。悪友と下らない話をしながら、だらだらと歩く二十六分。その慣れ切った時間の最中、()()は不意に現れた。


「……………………………………」


 巨大な、熊。三メートルはありそうな体躯を包み込む体毛は白く、けれどホッキョクグマと言うよりは何故か羆らしく見える。

 こちらを見る目に敵意は無い。それどころか、意思すら全く感じない。

 ()()()。津波や台風が薙ぎ倒していく樹木や建物に向ける視線は、恐らくこういうものだろう――そう思わされる程の、虚無。


 ……瞬間、本能的に理解した。


 これは「敵」ではない。これは、ただ純粋に「死」なのだと。

 それはまさに天災のような、抗いようの無い最期――否、もっと単純で明快な、生きとし生けるもの全てが必ず迎える幕引きそのもの。

 寿()()。多分、この表現が最も正しい。

 怪物(これ)は、自分の寿命なのだ。自分の生命の終わりなのだ。


 それはただの事実として自分の喉元に突き付けられ、まるで撫で斬る刃のようにゆっくりと肉へ押し込まれて行く。

 その最中、酷くつまらない映像を見た。

 幼馴染の親友と、その隣で戯ける自分。無表情な相手の横で必死にふざける自分の姿は、傍から見ると呆れる程に滑稽だ。


 あの自分は何を思って、あんな奇行に走ったのだろう。

 「サンタクロースみたいに、沢山の人に笑顔を届けられる男になれ」。そんな両親の願いに報い、家族を亡くした親友を笑顔にしようとしたのだろうか。或いはそんな親友にどう関わって良いか分からず、混乱してしまっただけか。事実がどうかは知らないが、前者であれば良いなと思った。


 だって、そうでなければ――自分の人生は、空虚なものになってしまう。

 十七年。その期間は、何かを為すにはあまりに短い。

 つまり、これが違えば他に無いのだ。

 自分の果たした役割――自分の生きていた理由が。

 そんなのは非情だ。無情だ。


 理不尽だ。


 だから、せめて。自分は役目を果たしたのだと、思い込みながら死んで行きたい。例えそれが意味の無い、道化の役回りだったとしても。

 最期まで――演じ切ってから、死にたいのだ。

 格好付けて。


 ――――どん、と。広げた(てのひら)を横に突き出し、そこに居た奴を突き飛ばす。


「……生きろよ」


 そこで、ぐちゃりと意識が途絶える。

 寸前、掌が触れたその場所は――何故か、妙に冷たかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ